2012/09/15

設備配管の加工をBIM的に 前橋市の空調会社ヤマトの挑戦!

図面データに基づき工場で加工
空調設備工事会社のヤマト(前橋市)が、設備配管の工業化に挑んでいる。施工図データに基づいて配管の加工を行うことで、現場合わせの手間を省けるほか、継手レスにより高品質な配管も提供できる。新井孝雄社長は「工業化の実現に向け、実はわれわれ自身が建築の納まりまで把握し、早期に設備図面を確定できるよう逆提案している」と明かす。その根底には企画から設計、施工、維持管理まで一貫して情報を共有するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に通じる考え方がある。

◇現場と工場で図面リンク

同社のワークフロー
同社が本社敷地内に鋼管の加工工場を建設したのは1994年。現場労働力の不足を補うとともに、作業効率や施工品質の向上が工業化の狙いにあった。2008年にはステンレス管の第2加工工場も併設した。新井社長は「加工配管の使用頻度はまだ全体の2割に過ぎないが、将来的には5割まで拡大したい」と期待を込める。
 工業化を下支えするのは、全面導入したNYKシステムズの建築設備3次元CAD『Rebro(レブロ)』の存在も大きい。現場から工場へのデータ共有が可能になり、施工図と加工図のダイレクトリンクが実現した。工場では担当者が示された図面データをもとに配管を加工、案件ごとにリスト化されたタグナンバーを貼って現場に搬送している。いずれは部材のモジュール化も実現する方針だ。

◇全社一丸での取り組み

同社では現場、企画推進部、施工図課が一体となり、配管の工業化に挑んでいる。そのために10数年前から意匠設計を学んだ人材を新入社員として迎え入れてきた。建築を理解している設備設計者を育てる狙いからだ。現在25人体制の企画推進部は、商品企画から設計、施主へのプレゼンテーションまで川上領域を担当する「逆提案」の担い手でもある。
 そこには、新井社長の強い信念がある。「分業化している日本の建築生産では誰かが横串の役割を担う必要がある。とくに地方の建設工事ではCM(コンストラクション・マネジメント)的に水平分業が実現しなければ、施主の思いをくみ取り、価値を提供することはできない。設備工事の役割であっても顧客目線で提案することで、施主に納得を得ながら仕事ができる。施主が求める価値を提供することで、信頼が生まれる」
 高崎市内で現在施工しているRC造9階建て延べ約9400㎡規模の有料老人ホームも、積極的に逆提案を行っている現場の一つだ。施工図課課長代理の北村秀弘氏は「天井空調の位置も風の流れ方を厳密に検討して決めている。実は担当外である照明の場所も一緒に提案している。関連する要素をすべて表現することによって、設備部分の提案の根拠になる」と強調する。
 例えば敷地内に設置する給水タンクなどの機器類は、建築空間の中でどのような納まりになるかを視覚的に説明している。企画推進部が把握している建築の空間情報に基づき、施工図課が設備機器の厳密な位置決めを同時並行で進める。建築全体の空間構成をつかんでいるため、施主の要求を踏まえた多様な検証を実現できる点が逆提案の強みにもなっている。

◇3Dショットパースも活用

 空調設備で知られる同社は、地元では建築工事を元請けとして受注するケースも少なくない。売り上げ規模は全体の数%に過ぎないが、社屋や事務所ビルなど年間2、3棟を手掛ける。施主から高い評価を得ているのは着工前に建物全体の見える化を行い、仕上げや内装まで厳密な仕様を合意してしまう手法だ。3次元のショットパースには材質や素材の情報まで組み入れる。施主とは細かな部分までスペックを決めることができ、現場での手戻りを大幅に軽減できている。
 「工業化の実現には逆提案が必要で、その手段としてBIMツールを使いこなしている。建築工事への対応も同じ。そもそもBIMの導入が目的ではなく、現場の生産性向上を突き詰めてきた結果として、現在の体制が確立した」とは新井社長。頭の中には、空調設備のオペレーションやメンテナンス記録を属性情報として反映させる「BIMの一貫手法にまで発展させたい」との思いがある。
建設通信新聞 2012年9月12日12面

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