1986年4月26日未明に、当時ソ連のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた暴走事故。2000年にロシアで発表された論文には、炉心区画の下に位置するRC床版の状態を調査した内容が記された。「これは福島第一原子力発電所事故でコンクリートがどのような状態にあったかを知る貴重な手がかり」と考えた日本コンクリート工学会(JCI)は、著者の承諾を得る形で技報堂出版から書籍としての出版を決めた。
◇2000度の超高温下の性質を記述
論文は、工学会の東日本大震災特別委員会エネルギー関連施設小委員会(委員長・橘高義典首都大教授)が福島の事故に関連したコンクリートの課題抽出を行う中で、チェルノブイリ事故を教訓にしようと情報収集していた際に発見した。集められた文献は周辺住民に対する放射線の影響を調査した内容が数多く存在していたものの、発電所のコンクリート構造物を調査対象にした文献はなく、青柳征夫委員が急きょ翻訳した。
工学会によると、論文には2000度の超高温下でコンクリートと鋼材の性質に及ぼす影響が詳細に述べられており、コンクリートが加熱や溶解によって大量の熱を溶岩状燃料含有物から奪い、コンクリート中に埋設された鋼材が高温で軟化して耐力を失っても、冷却後にはかなりの耐力を回復することなどが記されていた。
◇コンクリートが3号機を守った
チェルノブイリ原発では4号炉が暴走事故を起こしたが、隣接する3号炉にまで事故が波及しなかったのも「コンクリートが貢献した」ことが大きかった。事故から6カ月後に4号炉はシェルター(石棺)で覆われ、その1年後には3号炉を再稼働させている。工学会は、論文が「福島の今後の対応、ならびに炉心溶融に対するコンクリート構造物の安全性向上を図る観点から貴重な示唆を与えている」と考えている。
書籍が出版される24日は、工学会が2年間の期限付きで取り組んできた東日本大震災の調査報告会(東京都品川区のきゅりあん)開催日でもある。当日は提言が発表されるほか、翻訳した青柳委員が出版を記念してタイトルと同じ「チェルノブイリ原子力発電所事故-コンクリート構造物に及ぼした影響」をテーマに特別講演を行う。
福島原発では現地での情報収集が難しいだけに、工学会は「超高温状態でコンクリートがどう変化したかなど、実際に知ることができない状況を推測できる点でも、論文の価値は大きい」としている。書籍は税別2000円。問い合わせは技報堂出版・電話03-5217-0885。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年4月17日
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