2014/04/17

【建築3団体】新国立競技場コンペで浮上した課題 3会の会長が語る(中)

神宮外苑近辺(画像出典:国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省)
新国立競技場の建設に合わせ、神宮外苑の都市計画は大きく変更された。最高高さは70m以上に引き上げられ、巨大競技場の受け入れ準備は整った。しかし、コンペ案が確定してから数カ月もたって都市計画を変更した東京都の行動、そして建築の専門家が参加することのない都市計画審議会のあり方については、多くの建設関係者から疑問が投げ掛けられた。都市の機能が拡大・多様化し、個の建築家ではその全てを把握することが不可能になった現代。設計者は優れた建築のために、どう都市の変化に対応し、適合していくのだろうか。引き続き、藤本昌也日本建築士会連合会名誉会長、三井所清典日本建築士会連合会会長、三栖邦博日本建築士事務所協会連合会会長、芦原太郎日本建築家協会会長に語ってもらった。

◇なぜ都市計画の議論に建築家が呼ばれない?

 芦原 建築関連5団体の会長たちと神宮外苑は風致地区だからそんな競技場(新国立競技場)はできないのではないかというような議論をしていて、それではと調べてみたら、実は都市計画審議会を通っていた。東京都は都市計画審議会でちゃんと、都市計画を変更するというプロセスを正当にやっていたということが分かったのです。
藤本氏

 藤本 時間的な制約が当然あったのでしょうが、厳密に言いますと、もともと15mとか20mといった制限のある風致地区なのに、コンペの募集要項では高さ70mまでいいですよという数字がちゃんと出ていて、その1年後の都市計画審議会で高さ制限を75mと決めている。だから本来の手続き的に言ったら審議会で決定した条件でコンペをやるべきなのが、先にコンペをやらざるを得なかった。たしかに非常事態で、審議会が後追いというか、事後承認みたいな形で決まったという事例がない訳ではありません。しかし、その場合は事前の対策を丁寧に行い、何らかの文言で公開するものだと聞いています。今回はそれがどこにも示されていません。
 三井所 具体的に都市計画審議会で決まったのは2013年の6月。都市計画審議会にかけるために2週間ほど縦覧されていて、そこでいろいろなことを言えるチャンスはあった。
 芦原 東京都なりの従来のプロセスを経たものでした。だけど僕たちにしてみると、都市計画審議会で外苑の景観について、建築家や市民の目線からの審議がなされたとは思えません。委員にそういう観点からの建築家なり専門家が入っていないということも問題だろうと思います。例えば英国では建築法体系が地域の許可制になって、今回のような大きな競技場が建つとなると地域として許可を出すか出さないかを個別に判断をします。その際にサポートするCABE(The Commission for Architecture and the Built Environment=建築・まちづくり機構)という機構があって、それぞれの地域の中に開発が行われるというときにこのCABEから専門家が入り、市民に分かるように説明しながら市民・行政・専門家が議論をするわけです。ロンドン五輪の場合もそのCABEが機能した結果、競技場も非常にコンパクトな形でできて、五輪自体も成功したと言われています。
 わたしたちはデザインのアドバイスをできる機構を東京都が設けることを検討してほしいと(猪瀬前)知事にお願いしていたわけですけれども、日本の制度というのは建築が具体的に都市にどういう影響、あるいは市民生活にどう影響を与えるのかという定性的なチェックがなかなかしにくいというのが現状です。もちろん日本にも都市計画審議会のような制度はあるのですけれども、必ずしもうまく機能していない。そこをなんとかしていかないと、また第2、第3のこういう問題が起ってくるのではないかと憂慮しています。
三栖氏
三栖 そもそも、都市計画の議論に建築設計は関係ないと、国民からも行政からも思われているところに根本の問題があります。都市計画はそこに建築が建てられて初めて形になり、見えてくるわけですから、都市と建築、どちらが先ということでなく、一体のものとしてとらえる必要があります。敷地と都市計画の制約を前提条件として、その中で最適解を求めることに建築設計者自身が慣らされてしまって、それを超えて考え主張することをしてこなかった、という反省もあります。

◇景観を含めての都市計画を

 藤本 僕が一番びっくりしたのは、議事録を読む限り都市計画審議会で東京都が説明しているのは道路をどう拡幅するとか、公園はどこに計画しますとか、土木計画的なことだけで、そこにどういう建築が建つかという情報は一切出ていないことです。審議委員からもそこについては質問がありましたが、審査過程は非公開になっていますから出せませんといって終わってしまった。
 建築の景観がどうなるかなんていうのは一切情報開示をされないし、議論にもなっていない。それでも審議会は淡々と進んで、最後には結局、全員賛成挙手で通ってしまった。パブリックコメントをやっても、反対意見を読み上げて、それに対してはみんなちゃんと検討・対応していますというので終わってしまった。なぜ建築の姿が見えない中でこんな都市計画の大変更ができるのかとよくよく見たら、33人の審議委員の中に建築設計関係の人が1人も入っていない。だから議論をしようがないのかもしれない。とにかく、こうして建築設計関係者が入っていない形で審議が進んでしまったというわけです。自戒を込めていえば、この事態を結果として長年放置してきた私たち建築設計界も大いに反省しなければなりません。
 三栖 都市計画審議会が機能しているのかどうかとか、都計審ではない違う枠組みが必要なのかという議論はありますが、そもそも都計審に景観を考える人たちの意見が入る枠組みになっていなかったのではないか。わたしが東京都建築士事務所協会の会長になってから、都市計画審議会に建築設計の専門家を入れるべきと活動を続けてきましたが、いまだに実現していません。学識経験者の枠があって、都市計画、土木、法律、経済などの専門分野から委員を選任していて、さらなる委員の選任は困難である、というのが理由のようで、また、建築設計者に入っていただかなければならないような議論はしていないとも言われています。
 逆に、建築設計者が入らなくてはならない議論こそ、都計審でやってもらいたいというのがわたしの思いです。都市計画は、その規制のもとで設計され、実現される建物を通じて都民の暮らしに大きな影響を与えるわけですから、建築設計者には国民に代わって発言する義務があるとさえ言えます。都計審での議論に建築設計者が入っていれば違ったであろうとは軽々には言えませんが、少なくとも、景観へのインパクトについての十分な議論がなされたかどうかが疑問視されるような結果にはならなかったのでは、と思われます。
三井所氏
三井所 以前、東京で拠点的な開発をどう進めるのか調査するためにロンドンの都市計画協会というところを訪れたのですが、そこで2つの話を聞いたことが記憶に残っています。1つは許可の出し方についての話です。プロジェクトの最初の段階で計画を進めていいかどうかを検討して、許可が出たら次に進める。そして許可されたものはタウンホールの中にパネルや模型が置かれて、こういう考えでここが開発されようとしていますと公にされます。
 もう1つは景観の話で、通りのここからここまでは必ずこれが見えるようにして、それを隠すような建築をつくってはいけないとか、そういった景観を制限する法律があると聞きました。すごく分かりやすいのですよね。市民に情報を公開し、その反応をちゃんと受けとめて次に進むという仕組みになっている。しかし、日本ではそこのところが欠けていて十分な時間がとれず、オープンな議論の中で街並みが形成できるようになっていない。海外から同じような仕組みや言葉を導入するのだけれども、市民、建築士、都市計画の専門家がうまくそれにかみ合うような制度としてつくられていないというところに問題があると思います。
 藤本 先の三栖さんの話に関係しますが、確かにわたしにもよく分かるのだけれども、どうしても自分たちの団体の会員を審議員に推薦しようということにもなるから、なかなか建築界全体の問題としてオープンな運動にならない。でも、われわれは「建築・まちづくり宣言」(2011年)を大々的にやったわけでしょう。もしそれが日本のまちづくりにとって非常に重要なことだということになれば、今後の問題としてそういう大事な都市計画と建築の関係性を制度の問題として建築関係団体全体が連携して議論し、改善していく必要があると思います。
 三栖 東京23区にはそれぞれ都市計画審議会があり、建築士事務所協会の支部から委員が出ている区も数多くあります。また、審議会に出ていなくても、景観への影響などについて建築設計の実務者が事前に検討し、意見書をつけて審議会に上げるという仕組みもあり、1つの方法だと思います。時間はかかりますが、出来るところから、一歩ずつ実績を積み上げていくことが大切だと思います。
 三井所 審議会では、前例でこういうことでOKにしたからここでもOKにしないと不公平が生じるとか、そういう判断が中心で、個別の地域の特殊条件を検討することは少ないのではないかと思います。だからいろいろな意見を陳述書として出しても、委員会では重く取り上げられることもなくて通ってしまう。みんなの意見を反映する状況やアイデアを出す時間、チャンスを設けないで形式的にすっと通してしまうという「巧みな体質」なのではないでしょうか。

◇多様なジャンルとの連携が必要

芦原氏
芦原 それぞれの地域で自分たちの建築なり、環境、都市の問題を考えて、市民にもわかるような形で議論をすることをどう実現するかが大事ということですね。審議会等の現状の制度にはいろいろなものがあるわけですけれども、それがうまく機能するようにするべく、この3団体、4団体、5団体が声を出していくことが大事だなと思います。
 藤本 その場合、やはり、市民の意見をどう集約できるかというのが一番ややこしい問題になるかと思います。団体活動も建築家が専門家としてクローズしないように、市民にも開かれて、だけどお互いに各々の役割を自覚しながらやっていただきたいなと思います。さらにいえば、都市計画を市民の手に取り戻すには、ただ建築家だけが頑張れば済むというものではありません。これからの時代のニーズを考えれば、都市デザイン、ランドスケープデザインは無論のこと、社会学、地理学、歴史学などの専門家との連携も必要不可欠になると思っています。
 (24日掲載の〈下〉に続く)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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