2014/04/15

【復興まちづくり】住民の愛着高めてコンパクト化を 平野勝也准教授に聞く

平野勝也准教授(東北大学災害科学国際研究所)
震災から3年が過ぎ、被災自治体は住民の安全・安心に配慮した復興まちづくりを進める過程で、さまざまな試行錯誤を繰り返している。被災直後に宮城県石巻市と南三陸町で復興計画策定に携わり、現在も同市と女川町で復興まちづくりを支援する東北大学災害科学国際研究所の平野勝也准教授に、復興まちづくりのあるべき姿や現状、課題などを聞いた。
--復興まちづくりのポイントは
 「これからの時代のまちづくりにはコンパクトシティーの概念が必須だ。公共に加えてライフラインを担う民間分を含むインフラの維持管理コストや、住民間のコミュニケーションの密接化、バスなどの公共交通体系など、人口密度が高いまちは、営利・非営利を問わず集積による相乗効果が期待できる」
 「経済が念頭にある都市開発とは異なり、地域の歴史や文化を生かし、住民が愛着や誇りを高めて精神的な充足感を得られるのがまちづくりだ。日本人の都市感は自然に寄り添うことでつくられてきた。被災した土地をかさ上げして再建する場合は、区画整理を丁寧に設計し、まちから見える自然や景色を再現することで、住民が共有している記憶は継承できるはずだ」
--都市機能を集約する一方、将来の限界集落などが問題になる
 「震災に関係なく日本全体が抱える問題の一つに、不動産市場が健全に機能していないことがある。石巻市は震災前から人口が減少していたにもかかわらず、人口集中地区(DID)面積が増えていた。中心部に空き家や空き店舗があるものの、復興のための用地提供が足りず、郊外に拡大せざるを得ない状況だ。コンパクトシティーとは逆の状況が進むのはいわゆる土地神話の影響が大きい」

◆適切な縮退へ理論、制度も必要

 「人口が減少局面を迎える中、まちを持続的に運営していく上で、足かせになるのが限界集落や郊外団地にあるインフラだ。被災地では高台移転後の津波浸水区域の低平地をどう扱うかが大きな問題となっている。自治体は津波浸水区域の宅地を買い取った後に公園への転用を考えていたが、認められていない。ライフサイクルコスト全体で考えればインフラを廃止し、自然に返す方向が望ましいが、適切に縮退させる理論や補償・誘導制度などを議論する必要がある」
--住民参加や専門家の活用状況について
 「住民参加型のまちづくりの経験が少ない被災自治体が多いため、一度でも住民に図面を見せてしまうとその後の変更が難しいと考える人もいる。また、いまも学識経験者といった外部の知恵を入れながら、まちづくりを進めている被災自治体はあまり多くないのが現状といえる」

◆土木と建築の協働で相互チェック

 「学識者支援や専門家支援の調整機能がうまく働いている石巻市の復興まちづくり会議では、半島部ワーキンググループを統括している。牡鹿はアーキエイド(建築家による復興支援ネットワーク)、北上は日本建築家協会(JIA)東北支部、雄勝は東北大や日大などの連合体が現地に入っている。土木と建築の専門家がコラボレーションすることで相互チェック機能が働く。建築の専門家は多いが、土木的観点からコメントできる人が少ないのが問題だ。それぞれの専門分野も細分化しているが、他分野の教養と見識を持ちつつ、同じようなアンテナを持つ人たちと協働していくことが必要だ」
--委員長を務める女川町復興まちづくりデザイン会議の取り組みは
 「女川の中心部は、まちの記憶を継承する一方、歩行者専用のプロムナードというシンボルストリートをつくることで、新たな魅力を創造する。全ての高台住宅から震災前以上に女川湾がきれいに見えるような仕掛けづくりや、コンパクトシティーを念頭に個別事業のプランニングやマネジメントに取り組んでいるところだ」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

Related Posts:

  • 宮城の“節水解消"1日も早く 県南浄化センターで水処理施設を復旧中! 県南浄化センター  宮城県の県南浄化センターは、仙台市の一部を含む宮城県南部5市6町、約28万人分の汚水を処理していたが、東日本大震災の大津波で壊滅的な被害を受けた。  5系列ある水処理施設のうち沈砂池ポンプ、最初沈殿池、反応タンク、最終沈殿池、塩素混和池など一連の浄化処理機能が全面的に停止。汚泥処理の濃縮施設、消化施設、脱水設備および燃料化施設もすべて機能不全に陥った。  同施設は県中南部下水道事務所の所管だが、同事務所では県南のほか仙… Read More
  • 壊滅から復活! 太平洋セメント大船渡工場が完全復旧 大船渡工場のガレキの除塩・脱水装置  東日本大震災で甚大な被害を受けた太平洋セメントの大船渡工場(岩手県大船渡市)が完全復旧し、7月11日に大船渡プラザホテルで復旧記念式典が開かれた。大船渡工場は、大津波で場内にがれきが流入。原燃料には海水が浸水し、製品は固結、地下施設には汚泥が流入し、電気・機械設備も機能を停止するなど壊滅的な被害を受けた。  その後、施設・設備の復旧を懸命に進め、鉄塔の再建と特別高圧電力の復電により、2台のキルンのうち、… Read More
  • がれき処理、有毒ガスと感染症にはご注意を! 産業医科大の教授が警鐘  東日本大震災の被災地で続いているがれきの処理。その処理に当たって産業医科大学医学部の谷口初美教授が、撤去作業に伴い感染症と有毒ガスが発生する恐れがあると、日本ペストコントロール協会(JPCA)の機関誌7月号で注意を喚起している。  感染症としては、過去の廃棄物処分場での調査結果を踏まえ、レジオネラ属菌による呼吸器感染症のほかに創傷感染(破傷風)を挙げた。また、有機物や石こうボード、海水由来の硫酸イオンが含まれているがれきを扱う場合は、硫化水… Read More
  • 復興祈って、上野で「東北の稲穂」を田植え 田植えをする地元上野の小学生ら  9月下旬から約1カ月、東京都内の6公園をメーン会場に第29回全国都市緑化フェアTOKYOが開催される。その会場づくりを兼ねたプレイベントが7月8日、上野恩賜公園(台東区)であり、企画展示「東北『農』の庭」で展示する稲穂の一部となる田植えを地元の小学生が行った。 「東北『農』の庭」は、東北の稲や野菜、果樹で構成する、東北の復興を祈る大規模なガーデン。先進の垂直緑化技術が可能とする造形美と多彩な表情を見せる野菜… Read More
  • 高砂熱学工業が被災地向けに「ピザ焼きカー」贈呈 贈られた「移動式ピザ車両」 高砂熱学工業は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として「社会との調和」をテーマとした社会貢献活動具現化プログラムを始めた。東日本大震災の被災地に対する継続支援と全国の社会福祉施設の訪問を通じ、社会貢献する。「被災地・社会福祉施設の子供たちを元気にしたい」というコンセプトのもと、第1弾として移動式ピザ車両を購入し、ボランティア組織「ぬーばプロジェクト」(澁谷満廣代表)の運営母体となる第一サービス(本社・さいたま… Read More

0 コメント :

コメントを投稿