2014/04/08

【住宅再建】戸建てでも路地空間でコミュニケーション配慮 宮城県山元町

住戸間の中央を貫く歩行者専用のコミュニティーロードを設け、隣近所の顔が自然に見えるよう設計
震災から3年が過ぎて被災地の基盤整備が整いつつある中、これから建設ラッシュを迎えるのが戸建て住宅の再建だ。資材価格の高騰や職人不足などの課題を抱える一方、入居後の課題とされるコミュニティーの形成に向けて、さまざまな工夫や新たな仕掛けが行われている。宮城県山元町の中心市街地を再生する、新山下駅周辺地区第2期災害公営住宅新築工事の設計と監理を担当した鈴木弘人設計事務所の鈴木弘二所長と鈴木大助副所長に取り組みを聞いた。
 新山下駅周辺地区第2期災害公営住宅新築工事設計業務は、町の要請を受けて整備主体となった宮城県から12年7月に受託した。津波被害を避けて移設されるJR常磐線新山下駅西側(同町浅生原字新館前48ほか)の敷地約1.3haに、木造平屋と2階建ての戸建て住宅25戸を建設するもので、設計は2LDKと3LDK、高齢者対応の3タイプを基本とした。南北の向きなどで変化をつけ、高い天井を生かした伸びやかで、豊かな空間ボリュームが特徴の住宅だ。
日本建築家協会(JIA)東北支部宮城地域会長を務める弘二氏は、震災直後にJIA東北支部としてアルセッド建築研究所などと共同受注した国土交通省の「宮城県(南部)における災害公営住宅の計画・供給手法検討業務」に参画。「仮の住まいである応急仮設住宅から恒久的な災害公営住宅に移行する段階で、近所付き合いや見守りなどのコミュニケーションに配慮したまちづくりを考えていた」と当時を振り返る。

■厳密な品質管理
 新山下駅周辺地区第2期の最大の特徴は、道路の反対側で向かい合わせに配置した玄関と、その住戸間の中央を貫くように設けた歩行者専用の路地空間『コミュニティーロード』だ。「玄関に入るために必ずコミュニティーロードを通ることで、隣近所の顔が自然に見える。仮設住宅からさみだれ式に入居してくる住民同士の交流を必然的に促す新しい仕掛けだ。玄関は正面で向き合うが、寝室などの配置をずらすことで、プライバシーの確保にも配慮している」と、その狙いを弘二氏は語る。
 同事業は当初、25戸すべてをシステマチックに設計・施工することで工期短縮とコスト縮減、監理業務の負担軽減が期待されたが、建築工事は1回目の入札が不調となり、着工が遅れた。実際に監理業務が始まると「書類関係はほとんど同じだったが、施工は棟によってつくり手が違うため、厳密な品質管理が必要だった」(大助氏)という。着工後も基礎や大工、左官などの専門職が不足し、工期延伸を余儀なくされた。「施工は10パーティーほど入っていたが、1人で建てられるのはせいぜい4棟程度。何らかの理由で1つでも工種が欠けるとそこから工程の遅れが雪だるま式に膨らんでいった」(弘二氏)と振り返る。
 さらに「25戸程度のスケールでは、資材調達のメリットがほとんどなかったようだ。設計図も分かりやすくするなどスピードアップに努めたが、設計の中だけでは、解決できない問題があると痛感した」(大助氏)とも。

■見守りにも配慮
 こうしたことを踏まえ、大助氏は、「ハウスメーカーやビルダーのように短期間で整備するためには、あらかじめ設計者と施工者が組む必要がある。それと同時に発注者を交えながらコミュニティーロードのような改善策を検討できる体制もあらかじめ整備しておくべきだ」との考えを示す。
 同事務所は、岩沼市玉浦西地区災害公営住宅のうち蒲崎・新浜地区21棟47戸の設計も担当している。間もなく着工するが、「コミュニティーロードを中心とする新山下2期地区の取り組みを発展させたい。前回の経験を生かし、監理も円滑に進めたい」と語る。
 また、現在設計を進めている玉浦西地区集会所3棟についても「玉浦西は被災前の地区ごとに固まって入居するため、新山下地区ほど住民間の連携は心配していないが、お年寄りや生活弱者のための見守りや福祉の充実は欠かせない。NPOやNGOなど手を差し伸べてくれる人たちが、地域に入り込める居場所をつくり、福祉ネットワークのきっかけとなる場所を考えたい」(弘二氏)としている。
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