2014/04/18

【建築】基本計画から市民参加の地元密着施設 三次市民ホール

外観パース
広島県北部の中心都市である三次市で「三次市民ホール」の建設が進んでいる。「市独自の文化芸術を創造し、県内外のみならず全国に発信したい」。そんな願いを具現化するため、計画段階から市民参加を得て、事業を進めてきた。本体工事も順調に進み、徐々に建物の全容が現れてきた。最大の特徴である地上から5m浮き上がったピロティ形式の外観は、さながら「方舟(はこぶね)のよう」と市民の間で評判になっている。一般公募による施設愛称も「きりり」に決まり、11月の施設完成に向け市民の期待は高まっている。

 同ホールの基本計画には、▽三次全市民が日常的に芸術文化に触れ、健やかで豊かな心を育む▽自然とまちを同時に感じられる環境の中で、三次独自の芸術文化を育む▽県北の中核都市における芸術文化の発信拠点となる--の3項目が盛り込まれている。この基本理念を設計に反映させるため、設計者選定には公募型プロポーザルを採用し、66者にも及ぶ参加表明者の中から1次、2次審査を経て、青木淳建築計画事務所を特定した。

現在の現場状況。11月の完成へ最盛期を迎えている
同事務所の提案は、「地上から5m持ち上げる」「大回廊を設ける」「空間を使いきる」の3点を基本方針に、市内をめぐる川との共生を図り、市民が積極的に施設を活用することで、三次の新たな文化の創造を目指すというもの。
◇市民の参加機会をあらゆる場面で

真っ白な仮囲いを設置、地元の子どもたちがペイントした
市が計画を進める上で最もこだわったのは、市民との対話だ。三次市市民ホール担当の杉原達也係長が「基本計画策定時から市民代表に参加いただき、ワークショップを開催した。設計段階でも青木先生には、設計説明会やワークショップに参加いただいた」と語るように、多くの市民参加の場を設けたほか、青木事務所が「設計ノート」というブログを立ち上げ、市民との対話の機会をつくった。また、工事が進む現場では、施工者の鹿島・加藤組JVの全面的な協力を得て、あえて真っ白な仮囲いを設置し、地元住民のためのペイントイベントを企画した。「地元の子どもたちを始め、多くの人々に参加いただいた。地域との交流を深める良い機会になった」(杉原氏)。
市民ワークショップ
完成後の管理・運営形態も市独自の手法を導入する。現文化会館を管理する地元の会社に指定管理者として基本的な建物管理を任せる一方、市民参画組織と指定管理者、市による事業運営委員会を設け、より充実した自主事業の企画運営を目指す。「市民のためのホール、独自の文化を発信するという趣旨からも地元で舞台を運営したい」(同)という思いは強い。当面は「舞台芸術のノウハウを持つ専門的な主体に参画いただき、地元の力を高めていく」方針だ。

◇劇場コンサルが地元運営力高める

 計画段階からプロジェクトに携わる杉原氏は「ホール建設は、完成後の管理運営を含め素人には難しい世界であることを実感した」という。そういう意味でも劇場コンサルタントとして当初から参画しているシアターワークショップの存在が大きかった。劇場コンサルの草分けである同社代表の伊東正示氏は、職能としての劇場コンサルタントの確立と一連の業績に対して日本建築学会賞を受賞している。杉原氏は「ハード面はもとより、管理運営に対する助言など、文字どおり総合コンサルタントとして頼もしい存在だった」とホール建設を検討する他の自治体からの問い合わせにも自信を持って推薦している。
 公募した施設の愛称は、926件にも及ぶ応募の中から「きりり」に決定した。市の気候特性(霧の海)と施設のイメージが合致したことが最大の決め手となった。
 施設は、同市三次町131-1地先(願万地地区)の敷地約1.4haに、RC造5階建て延べ約6880㎡の規模で建設する。工期はことし11月19日までとなっており、工事も最盛期を迎えている。来年3月のグランドオープンまでの約3カ月間も盛りだくさんのプレイベントが企画されているほか、開館直後のこけら落としで終わるのではなく、市民の発表やプロの公演を多様に開催することを目指し、開館1周年までをオープニングイヤーと位置付け、さまざまなイベントを開催する。

◆事業概要
▽名 称=三次市民ホール
▽建築主=三次市
▽設計=青木淳建築計画事務所
▽施工=鹿島・加藤組JV
▽工期=11月19日まで
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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