2014/10/16

【緊急インタビュー】相次ぐ地盤関連災害、東大の古関潤一教授と日本グラウト協会の中森保会長に聞く!

広島で起きた大規模土砂災害

液状化や造成宅地の滑動崩落、そしてことし8月に発生した広島市の土砂災害など、地盤工学の必要性が増している。自然災害における地盤の安全性について、東大の古関潤一教授と、日本グラウト協会の中森保会長にインタビューしました。


東大の古関潤一教授
◆ 古関潤一東京大学大学院工学系研究科・生産技術研究所教授へのインタビュー

--東日本大震災からの復興について

 現在、東日本大震災による液状化で被災した地域では、復興に向けて事業が進められています。例えば茨城県の潮来市日の出地区では、地下水位低下工法を採用し既に着工しています。また千葉県香取市の佐原市街地地区などでは、格子状地中壁工法を採用する方向で住民説明会が開かれるなど着工に向けて準備が進められています。

--再液状化の可能性は

 われわれの研究室で何度も液状化させる実験を行った結果、再液状化するか否かについて、ある程度の法則があることが分かってきました。激しく液状化した場所では土粒子の構造が乱されて再液状化の可能性が大きくなっていると考えられる一方、地表に少し水が出てきた程度の液状化では逆に水が抜けた分だけ密度が高くなり、同時に土粒子の構造も強化されて再液状化しにくい地盤になる傾向があります。今回被災した地区でも、地震後の調査によって再液状化しにくくなっているという結果が出たところもあります。

--液状化対策法について
 香取市では、広範囲にわたって液状化が発生しました。市役所周辺でも液状化がひどく、近くを流れる小さな川では液状化による噴砂に加えて川底の地盤が変形して盛り上がったために水の流れを阻害しました。市役所の建物自体はもともと杭が深くまで打たれていたため全く問題ありませんでしたが、建物直近の地盤は液状化により沈下したため、庁舎と周辺の土地との境で大きく段差が生じた結果、下水管が寸断されるなど地下埋設物に被害が出ました。
 こういった地盤変形による被害事例から考えても、地盤や建物をがちがちに固めて強化する対策だけではなく、逆にフレキシブルさ(粘り)をもたせて地震や液状化の影響をうまく吸収させる対策も場合によっては有効であることが分かります。下水管など建物とつながっている地下埋設物については接続部分にジャバラみたいなものを取り付ければ、建物とその周辺の地盤の動きが違っていてもこれを柔軟に吸収することで被害が軽減され、その後の取り換え工事等の復旧作業も安価で早く進められるでしょう。また、戸建て住宅については、剛性の高いベタ基礎を採用することで液状化が生じて不同沈下した際にも基礎の傾きを修正しやすくなり復旧コストも安くすむと思います。新築の際には、将来の地震で万が一、修正工事を実施する場合に備えて、ジャッキの挿入個所をあらかじめ設定しておくのも1つの対策法でしょう。

--対策の費用について
 構造物を新設する場合には、その重要度に応じた妥当な費用をかけて地盤を調査し、それぞれの地盤条件に適合する対策を行うことが大切です。一般に土木分野では、液状化対策を含む耐震設計法が整備・拡充されつつあり、それに準拠して適切に調査・設計・施工された新設の構造物が被災するおそれは低いと思います。一方、建築分野では、特に一般ユーザーにとっては液状化対策費用が安い方が嬉しいのが事実です。そこで、例えば対策費用とそれに見合った効果を松竹梅の3段階に設定し、ユーザーサイドで費用に関する制約やコスト対効果の視点から選んでもらうなどすれば、対策が進むのではないでしょうか。
 さらに、既存の構造物については新設時よりも液状化対策費用が膨大になる場合が多いので、被害が全く生じないようにすることは目指さず、被害の程度を効果的に軽減することを目指して比較的安価な対策を講じ、むしろ被災後の復旧体制や必要資材のストックを充実させることで、安心感を高めることができます。

--巨大地震に備える
 今回被災した東北や関東においては、市民レベルまで液状化に関する認識が広まり理解度も高まったと思います。しかし、これから発生するかもしれない南海トラフ等の地震の影響を受けるおそれのある西日本では、まだまだ認識が薄いと思います。今回の東日本大震災のような海洋型の巨大地震が発生すると、極めて広範囲な液状化被害が発生し、その被災状況を把握するだけで数カ月を要し、復旧には数年単位を要する事態に陥ってしまう可能性もあります。
 国土を点と線と面でとらえるならば、個別の橋梁など点としての土木構造物は既に対策が進んでいます。また、線となる道路・下水管路などのネットワーク施設では脆弱な個所が存在する場合があるため、国や自治体などの管理主体が対策を進めています。しかし、面となる住宅地についてはあまり対策が進んでいないのが実情です。狭隘な個所でも施工できる技術、あるいは広域をまとめて対策できる技術などの開発により、今後の対策を推し進めていく必要があります。

 日本は限られた低平地に人口が密集しています。他の国と比べるとゲリラ豪雨や大地震が頻発し、自然災害が非常に多い国です。人命や財産を守るために、地盤条件や過去の土地利用状況・災害発生履歴などをしっかりと調べ、その結果を踏まえて必要な対策と準備を妥当な費用で行う、あるいはその土地は買わない決断を下すなどの柔軟な対応をとっていくことが、今後は市民レベルにおいても必要となるでしょう。





中森 保 会長


--地盤耐震化の現状と今後の方向性

 「東日本大震災によって東京近郊を含め広範囲で液状化が発生しました。以来、液状化が身近な存在となり、地盤の耐震化の必要性が叫ばれるようになりました」
 「現在、東日本大震災の被災地区では、がれき処分から高台への宅地移転工事や防潮堤工事などが優先的に行われています。その他の地区では、国土交通省が中心となって堤防・港湾等の耐震対策が計画されているため、その分野での薬液注入工法の採用を期待しているところです。狭い場所等で小型の機械と全方向(360度)で施工可能な薬液注入工法の利点を生かした施工条件での採用を協会としてお願いしたいとアピールしているところです」

--東日本大震災で被災した地区の復興状況
 「被災した東北地区では、がれきの処分を始め河川堤防や下水処理設備等の復旧工事が大々的に展開されています。地盤改良分野においては、機械攪拌工法等の工法が多く採用されていますが、施工スピードとコスト面での採用と考えています」
 「一方、液状化によって被災された自治体については対策委員会等を立ち上げ、独自の対策工法を模索、試験施工を実施しています。その方法としては、注入工法以外に地下水低下工法や高圧噴射工法、壁状改良工法の組み合わせによる格子状壁改良等があります。工法の選定は、その土地の事情により選択するのが望ましいと思われます。ただ、民間住宅の液状化対策については公的資金の導入が難しいと思われるので、個人で対策された家屋も多いと聞いています。また、福島原子力発電所では、グラウト技術を有する協会員が社会的使命を果たすため頑張っています」
広島での災害の様子


--近年多発しているゲリラ豪雨等への対策
 「短時間で1年分の降雨量がごく小さい地域で観測されるなど、近年のゲリラ豪雨は予測が難しいです。基本的には雨水処理施設等のインフラ整備が第一となるのでしょうが、過去にない時間当たり降雨量に併せての設備計画は過大になることが予想されます。そのため、その場合のリスク管理としての造成宅地の安全性向上や重要構造物や地下施設への水の流入対策といったものを国の指導で行うことが必要ではないでしょうか。そのことが「国土強靭化政策」にもつながると考えています。宅地造成の崩落防止に直接注入工事がかかわることは少ないと思いますが、仮設利用などでは出番があると思います」
 「また、薬液注入工事は止水性を確保することが目的となることが多いですから、地下水位の急上昇による出水等の直接的な影響も懸念しています。施工や工事終了後の安全性を確保するためにはゲリラ豪雨によるリスクをしっかりと理解し、発注者などに説明できる技術者が必要となるのではないでしょうか」

--グラウト協会の役割や社会への貢献について
 「昨年4月1日に日本グラウト協会は一般社団法人に移行しました。今後も当協会員は、効率性や低価格ばかりを追求するのではなく、地盤状態や地質を分析し、最適な工法、施工計画を立案し、質の高い仕事を提供していきます。会員企業が切磋琢磨し、「国土強靭化」に貢献する協会でありたいという思いです」
 「一方、質の高い仕事を提供するために「登録グラウト基幹技能者の活用・育成」を5年間にわたり行ってきました。現在508人の資格保有者についてはヘルメットシールを配布し積極的にPRしています。有資格者がヘルメットシールを貼付することで、現場での有資格者の地位向上、無資格者との差別化といった資格取得のインセンティブになると見ています。今年度は初めての第1回の取得者に対し更新講習を実施します。グラウト技術の信頼性と技術継承を継続的に行えるような教育の場にしたいと考えております」
 「また昨年度、耐久グラウト注入工法施工指針の技術説明会を全国主要都市6カ所で開催し500人の方々が参加しました。この説明会は1997年から始めており、通算で8800人が参加するなど、普及・啓蒙活動を展開しているところです」
 「さらに、社会保険未加入対策の一環で協会としての標準見積書を作成したり、賃金水準の向上確保について決議し会員に周知協力要請を行いました。これらは今後の建設業および本業界の担い手の確保のため必要なことであり、今後も前向きに取り組んでいきたいと考えます」
 「来年4月に、当協会は創立40周年を迎えます。記念誌を作成し、協会活動への理解を得るために広く関係者に配布する予定です」

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