2014/10/23

【山下PMC】業界変革の時-改正品確法とアベノミクスによる発注トレンドの変化 2020以降の建設学

公共工事の品確法(品質確保促進法)が、ことし2014年6月、あまり大きな話題になることもなく静かに改正された。“静かに”と表現したのは、これから先、この法改正が建設業界に与える図り知れない影響度合いを考えた時、その取り扱いや受ける側の反応が少しおとなしいように感じられたからだ。

 特に着目したい点は、工事の性格や地域の実情などに応じた発注・契約方法を、発注者となる公共団体が選べるようになったことである。詳細は今後提示される運用指針や細則を待つ必要があるが、これまでの原則であった設計と施工の分離、予定価格策定と入札プロセスの固定化、あるいは単年度主義といった制度に改変のメスが入ったのだ。具体的には、ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)、詳細設計付き工事発注、設計・施工一括発注、CM(コンストラクション・マネジメント)、包括発注・複数年契約・共同受注、などの多様な方式を許容し、その中から個別の実情にあわせて最適な方式を取り入れることが可能になる。
 今回の改正は、民間で先行するさまざまな発注生産手法やノウハウを活用することで、工事費上昇や入札不調、人手不足といった問題に正面から向き合い解決しようとする国側の強い意志の表れだと感じる。歓迎すべきことである。
 建設業界は、現在活況を呈しており、それは日本全国にまで及んでいる。昨年初頭のアベノミクスに始まり、20年の東京五輪招致を手にしたことが、その大きな要因であることは誰の目にも明らかである。しかしこの改正の発端はもっと以前の東日本大震災の復興事業にさかのぼる。特に土木・インフラ分野を中心に、緊急性を要し非常の事態を一刻も早く克服しようと、さまざまな発注・契約方式が考案され、即座に実践されてきた。その結果が前述した多様な方式となって現れたのである。これらの手法を、建築を始めとする他の公共事業にもうまく利活用できないかと熟慮された結果が、今回の法改正につながったのだと推察される。
 現在の公共における建設プロジェクトの進め方は、このところの著しい時代の変化で少々制度疲労を起こしているような印象を受ける。目まぐるしく動く経済スピードの前に、長らく続いてきた制度自体が硬直化し悲鳴をあげているのだ。もし公共工事であれ、もう少し柔軟な運用が可能ならもっと良い解決につながるはず!という場に直面した読者の方々も多いことだろう。
 今回の改正が全ての問題を解決する妙薬だとは思わない。それでも、これまで公共工事の建設生産が抱えてきたさまざまな問題を解決する糸口となることだけは確かである。便利で理にかなったやり方に自然と収斂していくのが世の常である。民間事業で盛んに進められている合理的で効率的な手法が、段々と公共事業にも取り入れられていくことは、むしろ自然な流れではないかと思うのである。
 そのためには、これまでの慣習的なやり方を見直すことから始めなければならない。例えば、建築事業で発注者が手にする最終成果は、実際の建築物と竣工図書(引渡し書類やソフトを含む)である。だからこの両方の精度向上に注力するメカニズムを構築すべきである。さらに言うと、設計図は竣工図書の中の竣工図に集約される。ならば、企画→基本設計図→実施設計図→竣工図のバトンリレーがスムーズにつながるような制度に変えるべきではないか。実施設計図は、工事請負契約という途中プロセスでは必要な図書だが最後は消滅してしまう。だから実施設計図を重視するのではなく、竣工図から遡って実施設計図のあり方を見定めるのである。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の進化がこれを後押しするのだろうが、制度自体を改変することのほうが重要だと思われる。
 公共工事でこれらの制度が全国的に普及すれば、これまで大都市部だけで採用されてきた手法が、地方の民間企業をも巻き込んで幅広く浸透していくことになる。それが、発注者にも受注者にも、無駄ではなく得になる方法であればこれより望ましいことはない。国内で建設産業に従事する人たち全体が、健全な商習慣を営んでいけるような建設生産社会を目指したいものだ。そういう意味で今回の改正が業界に問いかけてきた意義はとても大きい。
(山下ピー・エム・コンサルタンツ 川原秀仁)

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