2014/10/28

【坑内火災対策】火を起こし煙を充満させ…前田建設と釧路コールマインが緊迫の合同訓練

前田建設が、国内唯一の坑内掘石炭生産会社である釧路コールマイン(北海道釧路市)とトンネル災害対策の合同訓練を実施している。業種・業態の異なる両社だが、ともに専門の救護隊を持ち、「安全対策に関しては同じ理念を持っている」(釧路コールマイン救護隊の松金孝生隊長)。しかし、ありきたりな訓練ではない。坑内火災の想定どおり、実際に火を起こして坑内に煙を充満させる。マスクと静電防止服に身を包んだ隊員たちは、酸素呼吸器を背負って高温と濃煙に満たされた坑内に入る。装備や行動に一切のミスが許されない緊迫の現場を取材した。

訓練専用の坑道
釧路コールマインは、自社敷地内に訓練専用の坑道を持ち、年に4回の訓練を行っている。70数年の歴史を持つ同社の救護隊は、坑内火災など災害発生時の人命救助や被害拡大防止を任務としている。訓練坑道の基本構造は昭和20年代前半に完成し、その後拡張・改修を重ねてきた。現在、坑道の長さは200m程度で、訓練メニューによって実際の歩行距離は異なる。
 一方、前田建設も2007年10月、当時の前田靖治社長による発案でトンネル災害専門の前田救護活動隊を発足させた。災害発生時に的確な状況判断と捜索・救護活動を行うことができる職員を育成・保持するのが狙い。現在の隊員は計21人で、30-40代のトンネル技術者を中心に構成し、「ずい道救護技術管理者」を資格要件としている。隊長は、徳島県のトンネル現場で副所長を務める園田広樹氏。年2回の訓練を行い、うち1回が釧路コールマインとの合同訓練だ。
 今回で7回目となる合同訓練がスタートしたのは08年7月。釧路コールマインの独自訓練を知った前田建設が、合同訓練を要請して実現した。9月26、27の両日に実施した今回の訓練では、前田建設の福田幸二郎代表取締役副社長(安全管掌)が、「単なる知識や書類上の記録となりがちな救護技術を、自分自身の経験や記憶として消化してほしい」と隊員たちに呼び掛けた。

装備を点検し、身につける
訓練は、装備の点検・装備から始まる。隊員たちは、マスクと静電防止服を身につけ、ランドセル型の酸素呼吸器を背負って、適切に作動するかどうかをチェックする。危険と隣り合わせの訓練だけに、装備の不備は許されない。

マスクと静電気防止服を装備し、坑内へ向かう
訓練坑道に併設した炉にはあらかじめ薪がくべられ、坑内を煙と熱で満たしている。坑道温度監視盤の表示は180度超。各班に分かれた隊員たちは視界30cmの坑内を進み、り災者を模した人形の救助や、坑内障害物の撤去など一定時間内に決められたメニューをこなしていく。
 今回は2人の新任隊員が訓練に参加した。前田建設の園田隊長は、「初めて訓練に参加した時は、視界がほとんどなくパニック状態だった。坑内で何をしているのかすら分からなかった」と振り返る。訓練を終えると、純白だった静電防止服はすすで汚れ、マスクを外した隊員の顔には安堵と疲労の色が浮かぶ。しかし、なぜここまで本格的な訓練を行うのか。
 釧路コールマインの松金隊長は「災害の恐ろしさ、現場での救護の難しさについて身をもって知ってもらう。誰もがゼロ災害を願うが、現実には難しい。さまざまな分野でいかに機械化が進もうと、事故が起これば必ず人の手が必要になる場面が出てくる」と訓練の意義を説明する。
 前田救護活動隊は、事前に自ら取り組むべきテーマを決めてから合同訓練に臨んでいる。訓練を終えた園田隊長は、「これまでの課題だった(坑内と司令基地との)通信連絡が上手くいった。坑内作業も着実にレベルアップしている。この合同訓練は貴重な経験であり、貴重な財産だ。隊員はさらに自己研さんを重ね、隊を成長させてほしい」と話す。
 両社とも過去に坑内災害の辛い経験をしている。その経験を決して風化させないための取り組みであり、安全に対する情熱、それを具現化したのがこの訓練といえる。
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