2014/10/13

【建築】形状とサッシ位置の工夫で「風の通る家」に LIXILのパッシブハウス

「風の心地良さを感じてほしい」。LIXILの吉田格ハウジング企画部部長は、愛知県豊田市に建設した体験型展示棟の魅力を、そう表現する。自然環境に配慮した建物の基本性能を優先する「パッシブファースト」の考え方を具現化した展示棟は、いわばLIXIL流の住まい提案でもある。「特別な技術はまったく使っていない。建物形状とサッシの位置を工夫しただけで、これだけ風を感じることができる」と胸を張る。

 今春のオープンから5カ月間で計7000人が見学した。このうち7割がビルダーや工務店などの実務者たち。建設地の低炭素社会モデル地区『とよたエコフルタウン』に参加が決まったのは2013年10月。住宅事業者に限られていた参加条件の変更を市に要望してまで出展にこだわった。「地域の工務店にパッシブハウスの理解を広めたい」(吉田部長)との思いが根底にあった。

ここには、風を取り込む仕掛けが随所に見られる。象徴的なのは“ちょんまげ”のように屋根から突き出た塔屋。屋根に沿って流れる風を建物内に誘導する役目を担う。風の向きは季節によって変わる。どの向きからも家の中に取り込めるように工夫したアイデアの1つだ。11年に同社が東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)に設置した実験住宅『COMMAハウス』を進化させた。

塔屋は南北2方向に窓、東西2方向に壁の構成。通り抜ける風の流速を早めるため、あえて壁を湾曲させた。川幅が狭まれば、水の流れが速くなる原理だ。屋根に沿って流れる風は、塔屋の窓を通り抜ける際に誘引作用も生み出し、他の建物開口部から外気を取り込み、部屋の中に風の通り道を作り上げる。

吉田格部長
建物の両壁面には、あえて縦すべり出し窓を設け、ヨットの帆のように通り抜ける風を室内に取り込む。暖められた空気が上昇する特性を利用し、地窓も配置している。「通常の住宅プランでは下から上に風の通り道を設定するが、ここでは上から下の流れ方も強く意識している。まさに風と向き合う家」と吉田部長は強調する。

室内は柱のない広々とした空間
来場者に風を感じてもらえるように、木造でありながら長さ6mの大開口を実現する開発中の新構造技術「スマートスケルトンゲート」も初採用し、室内に柱のない広い空間を実現した。これは風の通り道を大胆に見せるための仕掛けだが、実際にこの構造技術がなくても風を十分に取り込むことができるという。
 同社は、室内に取り付けた風速計を使い、季節や時間帯によって風がどのような流れ方をするか把握し、そのデータを長期的に分析する方針だ。窓の配置は設計時にシミュレーションに基づいて割り出しているが、実際の流れ方からより最適な配置計画を再検証する。吉田部長は「多くのエネルギーを使わなくても、快適に暮らせる。これこそパッシブファーストの考え方。地域に広く普及させるには、特殊な技術を使わなくても実現できることが重要になる」と確信している。
 展示棟の運営は7年間の期限付き。構成要素の商材すべては同社製で、商材自体の使い方を見せるモデルルールとしても有効と考えている。一般来場者は全体の3割程度(約2000人)だが、そのうち5%からは実際に建てたいとの声が寄せられている。
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