2014/10/26

【BIM】ジョブズが支援した「ArchiCAD」誕生から30年 デザインフリーダムを実現

グラフィソフト(本社・ハンガリー)のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト『ArchiCAD』が誕生から30年の節目を迎えた。ズヴェーニ・ルックス・ミクロシュ副社長(写真左)は「グローバルであり続けるため、ローカルを常に意識してきた」と、これまでの歩みを振り返る。開発の方向性は時代とともに変化し、現在は「デザインフリーダムという考え方に行き着いた」と強調する。

 1984年に誕生したArchiCAD。創設者で物理学者のボヤール・ガーボル氏は、地元ハンガリーで計画されていた原子力発電所建設プロジェクトの設備搬入を計算するCADプログラムを開発した。それがArchiCADの前身となったが、社会主義時代のハンガリーではソフト開発の資金確保などに苦戦を強いられた。
 商品化に結びついたのはドイツの展示会。きっかけをつくったのはアップル前CEOの故スティーブ・ジョブズ氏だった。グラフィカルな表現力をもつ建築ツールの可能性を評価し、グラフィソフトへの支援を決めた。それがグローバル展開への出発点でもあった。

既に初代は3次元的な仕組みであった
「初代ArchiCADはよちよち歩きながらも、3次元的な仕組みで数量計算の機能もあった。BIMソフトの“赤ちゃん”と例えれば分かりやすい」とは日本法人グラフィソフトジャパンのベンツェ・コバーチ社長。91年にはレンダリング機能を搭載し、94年からは日本向けの商品開発にも力を注いできた。
 そのころには、まだBIMという言葉はなく、独自コンセプトとして同社は「バーチャルビルディング」を打ち出していた。欧州を中心に支持を集めてきたものの、ビルディングタイプが国ごとに異なる中で、ユーザーの声を反映し続ける開発の歩みは苦労の連続だった。
 ArchiCADのコア機能は全世界共通で、国ごとに異なる建築基準や納まりの扱いについてはアドオンソフトやライブラリーの充実によって対応している。コバーチ社長は「欧州で実績を積んできたこともあり、異なるビルディングタイプに合わせられる順応性が、ArchiCADにはDNAとして存在している」と強調する。
 大きく評価を高めた機能の1つとして、複数から同時に操作できるチームワーク機能がある。ミクロシュ副社長は「建築は1人ではなく、皆でつくるもの。分業のあり方をより明確化し、新しいワークフローを支えることができた」と胸を張る。2009年からは膨大なデータに離れた場所からアクセスできるBIMサーバーの導入にかじを切り、現在のBIMクラウド時代の先鞭を付けた。

最新版ArchiCAD18ではレンダリング機能にこだわった
近年のユーザーは効率化だけでなく、使い勝手や処理スピードなどの部分を強く求めるようになった。9月に発売した最新ArchiCAD18ではレンダリング機能を強化し、「高度なスキルがなくても高度なレンダリングを実現できる」(コバーチ社長)環境を提供した。そこにはBIMの使われ方が多種多様に変化する背景が深く関係している。
 「現在はデザインフリーダムの時代。これからはいつ、どこからでも自由にBIMへアクセスできることが求められる。施主を含め、建築プロジェクト以外のメンバーにもつながる視点が、今後のソフト開発では欠かせないだろう」と、ミクロシュ副社長は見通している。11年に提供を始めたコミュニケーションツール『BIMx』も、将来を見据えた仕掛けの1つだ。
 ハンガリーの本社では建築家経験のある開発スタッフが50人を超え、日本など各国の拠点にも建築経験のあるスタッフを数多く抱えている。創業時から建築家の目線で開発するスタイルは今も変わっていない。「ユーザーの声を反映していくソフト開発は建築づくりに似ている。BIMの進展により、建築家のワークフロー自体が変革の時期に来ている。われわれは単にソフトを提供するのではなく、ユーザーのコンサルタント役としても機能する必要がある」(コバーチ社長)。グラフィソフトは次の時代をしっかりと見据えている。
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