2016/05/29

【インタビュー】建築学会賞作品部門受賞者に聞く 『武蔵野プレイス』の比嘉武彦さん、川原田康子さん


 図書館などを併設した複合施設「武蔵野プレイス」(東京都武蔵野市)は、審査員講評で「建築そのものが公共性に対する本質的な解を掲示した」作品として高い評価を受けた。オープンから5年目を迎えた今も年間約160万人が利用している。計画当初は市民から激しい反対運動もあったが、なぜ市民に愛される公共建築となったのか。「受賞できたのは利用者のおかげ」と語るkwhgアーキテクツの比嘉武彦氏と川原田康子氏に、地域社会において公共建築が担うべき役割を聞いた。

 「イトーヨーカドーのフードコートにたまっている青少年を移動させたかった」。もともと武蔵野市は地域のコミュニティー施設の利用率が高く、市民の文化的な活動への関心も高い自治体だった。しかし、利用者の多くはリピーターで、若い世代ほど利用しない傾向があった。そこで比嘉氏は意識の高い一部の市民だけが公共建築を利用する状況を変えるため、「子育て世代や若者、老人も含めた全世代が集まりたくなる場所」を目指し、設計に取り掛かった。
 自治体として成熟した地域だっただけに、建設に反対する住民も少なくなかった。川原田氏は「これまでの公共建築が期待外れで、新しい公共建築に期待できないために反対する。そこが自分たちの場所だと思える建築にしなければならないと考えていた」という。

年間160万人が利用する、「武蔵野プレイス」

 結果として完成から5年間でJR武蔵境駅の乗降客数は10%増加し、「武蔵野プレイス」を舞台とするアニメーションも放映された。地域住民の中心としてだけでなく、地域発展の起爆剤としての公共建築の姿を示した。両氏は多くの人々を受け入れ続けている背景として、「武蔵野プレイス」が持つ空間としての「寛容さ」を挙げる。
 設計に当たっては、無数の場所をゆるやかに結び、目的に応じて利用者がすみ分けられるように配慮した。地域によっては新聞をめくる音がうるさいと図書館にクレームが出るような時代だからこそ、堅苦しさよりも居心地の良さを重視した。「複数の場所をつくり、それぞれの利用者が自分の好きな場所を見つけられるようにした」(比嘉氏)と振り返る。
 川原田氏は「いつも襟を正さなければならない施設では、単純な機能は満たせても公共性は生まれない。複数性を持ちながら全体性が感じられ、区切れているようで一体になっている場所を目指した」という。
 こうした「バラバラでありながらつながる」(比嘉氏)ことで生まれるのが異なる市民を受け入れる寛容な空間だ。

堅苦しさよりも居心地の良さを重視した

 これまでの建築家のように「1つの理想的な市民像を想定し、つながりを強制する」建築とは異なり、市民をいろいろなピースから成り立つモザイク状のものとしてとらえ、受け入れる。川原田氏は「さまざまな人と出会い、それによって自らも変わっていくのが公共施設のあるべき姿だ」と指摘する。相反する価値を内包しつつ、つなげることで、新たな可能性も生まれる。「ただ受け入れるだけではなく、そこで生まれたさまざまな人との出会いによって他者との間に濃密な何かが生まれる」(比嘉氏)と考える。
 「建築は使われることに意味がある」(比嘉氏)との思いもあり、活用状況が明らかになった竣工から5年後に学会賞に応募した。これにより優れた公共性が高い評価を受けた。「公共建築にはまだ可能性があり、設計者はより良い公共建築をつくっていく必要がある」と強調する。地域に大きな影響を与えるからこそ設計者には重い責任があるのだと。
 川原田氏は「新しい可能性があるのに、その可能性を実現しようとしないのは、設計者や発注者の罪だ」と問題提起する。
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