2012/06/20

ファサードに光の装飾 ユニクロ心斎橋に採用された「ETFEフィルム」


ユニクロ心斎橋店

 「海外大型プロジェクトでは30件程度の商談が進行している」と明かすのは、旭硝子のフッ素化学品事業部でプロロポリマーズ部長を務める伊藤陽氏。商材のフッ素樹脂(ETFE)フィルム「アフレックス」は欧州を中心に10数カ国で数多くの大型プロジェクトの屋根・外装材として採用されている。自在に色合いを変化させられるフィルム素材の持ち味が魅力の一つだ。日本では建築材料として認められていないが、告示改正に向けた動きも具体化しつつあり、新たな建材として期待が高まっている。


◇アリアンツ・アリーナでも採用

 2010年10月に開店したユニクロ心斎橋店。昼間は真っ白なビルが、夜には多彩な色合いに変化するシンボリックな建物として注目を集める。伊藤氏は「実は日本でETFEフィルムが大量に使われた初めての建築事例」と説明する。内外装デザインを担当した藤本壮介建築設計事務所がトータルプロデューサーの佐藤可士和氏と相談して採用を決めた。
 建材として認められている欧州では、06年にドイツで開催したワールドカップサッカーのメーンスタジアム「アリアンツ・アリーナ」に採用されたように、近年はスタジアムの屋根・外装材としての採用が拡大している。日本で建材として使うには個別に認定を受けるしか方法はなく、ユニクロ心斎橋店ではビルを覆う化粧材の扱いとして導入した。
 規模はS一部RC造地下1階地上4階建て延べ4631㎡。基本設計は日建設計、実施設計・施工は大林組、フィルム部施工は太陽工業が担当した。通り側の外壁2面に対して、2・7m角の格子状に計79マスを採用した。フィルムの使用量は面積にして約3000㎡となり、日本最大の供給プロジェクトとなった。

◇当初は農業用に生産

ETFEフィルム

 ETFEフィルムは、樹脂を溶かしてフィルム状に加工したもので、耐候性や透過性に優れる。厚さは最小12マイクロm、最大では300マイクロmまで加工できる。自由に着色できるほか、照明との組み合わせで色合いを変化させることも可能。国内には4社の製造メーカーがあり、旭硝子は唯一、原料からフィルム化までの一貫生産を行っている。
 同社が市場投入したのは23年前。農業用グリーンハウス向けに塩ビフィルムの代替品として生産を始めた。当時施工したフィルムは、今でも使われているケースがあるように、高い耐久性を生かし、メンテナンスコストを抑えられる点が受け入れられてきた。近年は太陽電池の保護シートとしての需要も高まっている。エレクトロニクスや内装材としての採用実績も多い。
 伊藤氏は「農業での屋外利用が土台となり、着実に分野を拡大してきた」と強調する。近年では、北海道のある高校が冬場の野球練習場として使うための大型テントにフィルムを活用、兵庫県内の高校では屋外プールを覆うエアテントとして使った事例もある。生徒自らで空気を入れ、自由に使える手軽さが好評を得ているという。

◇膜構造協が告示改正要望

 海外では、重ねたフィルムに空気を送り込むクッション形式として建築物屋根材に採用されているほか、単層利用でフィルムを張って使うケースもある。3層フィルムによるクッション形式では、通常の複層ガラスより断熱性が高いとも言われている。フィルムの特性を生かした意匠性の高さや照明との組み合わせによる演出効果も人気を博しているメリットの一つだ。
 03年に専門委員会を設置し、ETFEフィルムの建材認定に向けた活動を続けている日本膜構造協会は、今月中をめどに告示改正の要望書を国土交通省に提出する予定だ。伊藤氏は「われわれメーカーにとっては大きな動き。日本での採用に半歩前進した」と、その動向を注視している。海外では広く採用されているだけに、新たな建築材として認められれば、国内での普及が一気に加速する可能性を秘めている。

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