2012/06/09

国交省BIM初試行のインパクト!「新宿労働総合庁舎」を徹底分析 最終回

すでに米国、ノルウェー、韓国などで、
発注者向けのBIMガイドラインが整備されている
 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入に際して「共通言語化しなければ、データは循環しない」と指摘するのは、公共建築協会と建築保全センターが共同設置する次世代公共建築研究会のIFC/BIM部会長を務める安田幸一東工大大学院教授。公共発注者向けのBIMガイドラインを作成中の同部会では既に素案がまとまり、2012年度中にも一定の成果を示す方針だ。

◇共通言語の整備が不可欠

 GSA(米国連邦調達庁)を筆頭にノルウェーや韓国などの政府機関には、発注者用のガイドラインが整備され、そのルールに基づき、設計者や施工者はBIMデータを構築している。プロジェクト関係者同士の情報共有に加え、後工程への円滑なデータ連携を実現する上で、ガイドラインの存在は欠かせない。
 試行初弾の新宿労働総合庁舎が着工し、これから施工段階の検証が本格化する。そもそも設計図と施工図では必要とするデータが異なるため、仮にBIMモデルに不足が生じた場合、設計者と施工者のどちらが対応すべきか、見極めが難しい局面も出てくる。生じた問題点は「一つひとつ解決し、その結果を次の案件に生かす」とする国土交通省官房官庁営繕部の方針だが、業務の役割分担や情報共有のルールを定めなければ、乗り越えられない課題もある。
 IFC/BIM部会にオブザーバー参加する官庁営繕部では、ガイドラインの導入を前提にしているわけではなく、あくまで情報収集の一環に位置付けるが、「維持管理への活用まで考えると、最低限のルールを定める必要があるかもしれない」(吉野裕宏整備課施設評価室長)と考えている。

◇メリットしかない

 「国が動けば、日本のBIMは一気に加速するはずだ」。ゼネコンや大手設計事務所の多くは、そうした共通認識を持ち、官庁営繕部の動きを凝視している。各社は民間プロジェクトで実績を積む中で、BIMに対する施主の評価が予想以上に高いことから、試行を通して国交省が導入に踏み切る可能性が高いとの見方を強めている。
 BIMは、生産プロセスに潜む情報伝達の手戻りを解消する手段とともに、プロジェクト関係者をつなぐコミュニケーションの手法でもある。施主はより早い段階で詳細なプランが確認でき、事業採算性など自らのビジネス領域に踏み込んだ検証も行える。「導入のメリットはあっても、デメリットはない」というのが大半の施主側の反応だ。

◇「期待」から「確信」へ

 官庁営繕部がBIMの試行導入を表明した2年前に施設評価室長として、その旗振り役を努めた吉田弘九州地方整備局営繕部長は「当時の省内ではBIMが発注者リスクを軽減する有効な手段であると認識し、その可能性に大きな期待を寄せていた」と振り返る。
 その期待は「確信」に変わろうとしている。「試行プロジェクトは動き出したばかりだが、既にはっきりしたことが1つある。BIMの可視化効果は、われわれ発注者にとってのコミュニケーションツールとして大いに機能している」(吉野施設評価室長)。
 受発注者間の合意形成だけでなく、入居官署への説明責任も含めた営繕組織の業務プロセスとBIMの相性は抜群にいいからだ。「見えないものが見えるようになった」。試行のインパクトは、官庁営繕部にも大きな影響を及ぼし始めている。
(おわり)

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