2012/06/28

岐阜・岐南町新庁舎コンペを振り返る kwhgアーキテクツ川原田康子、比嘉武彦氏にインタビュー

最優秀に選ばれたkwhgの提案
 岐阜県岐南町の「新庁舎等設計者選定設計競技」でkwhgアーキテクツ(東京都杉並区)の提案が最優秀に選ばれた。日本建築家協会(JIA)が支援し、登録建築家や専攻建築士での応募も可能ということでも注目されたコンペだ。kwhgアーキテクツは、2011年竣工の図書館、青少年・生涯学習・市民活動支援の複合施設「武蔵野プレイス」(東京都武蔵野市)の実績で参加。独立前に所属していた長谷川逸子・建築計画工房でも多くの公共建築に携わった経験から、「庁舎建築のあり方は変わっていくべきだと考えていた」と語る川原田康子、比嘉武彦両代表にインタビューした。


インタビューに応える川原田氏(左)と比嘉氏
◇庁舎のあり方 変わっていくべき

--コンペ参加を決めたのは
 比嘉「一つは、審査委員が建築家3人だけだったという点。建築の見方はそれぞれに違っても、建築家として高いレベルでみてもらえるという信頼感があった。また、JIAがバックアップしているという信頼感もあった」
 「もう一つは、もともと、庁舎建築に興味があった。とくに地方都市では都市の中心にありながら、格式のようなものがあって堅い。古くからプロトタイプ、ビルディングタイプが決まっていて、これだけ社会が流動化しているのに、それに合ったものができていないという疑問があった」
 「本来、庁舎は、自分たちのルールを決めたり、住まう場所をどうしていくかを話し合える場のはず。だから、庁舎建築のあり方は変わっていくべきだと考えていた」
 川原田「本当にパブリックスペースになっていなかったということだと思う。だから、従来のビルディングタイプからはみ出てつくってみたいと感じていた」
 「また、社会は、ハコモノという表現をして公共施設に期待していない状況にある。それが残念で、新しい公共施設とはこういうものという概念を理解してほしいと思っていた」
 比嘉「3つ目は、場所、敷地に興味があった」

◇“流れ"と“リンク"の中心に浮かぶイメージ

--今回の提案では
 比嘉「今回のプロジェクトは、庁舎、中央公民館、保健相談センター化した施設。複合機能であることに、庁舎の古いプロトタイプを打破した新しい可能性があるのではないかと考えた。それぞれの機能の垣根を越えた、あいまいな、新しい公共空間ができないか、さまざまな人が出会うことで生まれる刺激の場を連鎖的につくりたいと」
 川原田「特に用事がなくても自由に集まって来られる、そして、居て快適な、心地良い空間をつくろうと考えた」
 比嘉「そのことで、自分たちがまちづくりをするんだという意識も醸成される。公共施設は、日ごろからそこに人が居るということで変わってくると思う」
 「この考えを、厳しい敷地条件の中でプログラムした。敷地北側に接する街路はイベントにも使われていることや、岐南町は流通サービスで発展した町であること、近くに岐南などのインターチェンジがあること、境川に挟まれていることから、流れといろいろなものを結びつける、リンクさせるネットワークを考え、その中心に建物が浮いているイメージで考えた」

◇空間で解決する能力が建築家の職能

--空間、場をどう考えているか
 川原田「場を立ち上げるという行為には、ものすごいエネルギーを必要とする。そのエネルギーを意識することなくまったくフリーに、フレキシブルに使えるようなきっかけ、取っ掛かりを与える空間、場を考えている。また、いろいろな入り口がある場、空間ということもある」
 比嘉「同時に、場所、空間が身体に働き掛けて、そこにいることが居心地良いこと。空間性があってそこに引きつけられ、それをベースにして触手が伸びていく空間をつくりたい」
 「また、使える施設ということを考えた場合、造形が優先するとは考えていないし、機能だけで語れないこともある。空間にしかできないことがあって、空間で解決する。それを実現するのが建築家の職能だと思う」
 「ただ、人にきちんと話しかけられる造形はあってもいいと思う」
--設計を詰めていくにあたって
 川原田「これから行政と話し合いながら検討、決定していかなければならない部分が多い。その際、市民代表の代理機能を担う建築家は、行政の言うことを、住民の目線から検証することが必要だと感じている」
 比嘉「自治体間競争が激しくなってきている中で、岐南町の魅力を表出し、岐南町に住みたいと思ってもらえるだけのものをつくりたい。建築にはそれだけの力があると思う」


(かわはらだ・やすこ) 1964年山口県生まれ。87年早稲田大理工学部建築学科卒。同年長谷川逸子・建築計画工房入所。99年カワハラダヤスコ+KwhDアーキテクツ一級建築士事務所設立。2004年kwhgアーキテクツ一級建築士事務所に改組。05年kwhgアーキテクツに改組。現在代表取締役


(ひが・たけひこ) 1961年沖縄県生まれ。86年京大工学部建築学科卒業。同年長谷川逸子・建築計画工房入所。2001年比嘉武彦建築研究所設立。04年kwhgアーキテクツ一級建築士事務所に改組。05年kwhgアーキテクツに改組。現在代表取締役。

岐南町新庁舎等設計者選定設計競技概要
〈選定結果〉最優秀賞=kwhgアーキテクツ、優秀賞=みかんぐみ、佳作=アトリエ・アンド・アイ、ナック建築事務所、大建設計、篠田義男建築研究所
 〈選定委員会〉西沢立衛氏(建築家・横浜国立大学大学院Y-GSA教授)、松隈洋氏(建築史家・京都工芸繊維大学教授)、室伏次郎氏(建築家・神奈川大学名誉教授)
 〈審査日〉1次=6月6日、2次=8日、3次=9日
 〈建設地〉岐阜県岐南町八剣7丁目107他、敷地面積約8,277㎡。
 〈計画建物規模〉庁舎棟=延べ約5,000㎡、中央公民館棟=延べ約1,800㎡、保健相談センター棟=延べ約400㎡
 〈設計期間(目安)〉基本設計=9月末まで、実施設計=2013年3月15日まで
 〈着工予定〉13年6月

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