このPALというのは、建築物が1年間の冷暖房に必要とする単位で、床面積あたりの、外部から侵入する熱と内部で発生する熱の合計を示したもので、外皮と呼ばれる建築物の外壁などの断熱性能が高いほど数値は小さくなる。PALを外すということは、この外皮などの断熱性を無視し、設備側だけで省エネルギー基準をクリアしなくてはならないということだ。それがなくなったことは、設備設計技術者にとっての朗報なのである。
「設備側だけでは、省エネ基準をクリアすることは不可能だから、なんとか建築側で外皮を工夫してもらえないか」というやりとりができるのである。設備側にしてみれば「建築側が勝手に設計しておいて、あとは設備側の責任でやってくれ」という建築側の言い分が通らなくなったわけだ。
◇室別1次消費エネルギー量
もう一つ見逃せない点がある。
これまでの省エネ基準は建物用途ごとに決められていた。しかし、複合建築物が増加するに伴って、適切な判断が必要になってきたことも、改正の背景にある。その結果、生まれてきたのが、建物用途ごとの、室別1次消費エネルギー量というものだ。空調や換気、照明、給湯、昇降機別などに加え、寒冷地や温暖地といった地域区分まで考慮した結果、その数は200種類に及ぶという。いわゆる消費エネルギー量の「絶対値」が決められたのである。
設計1次消費エネルギー量は、この絶対値の総和を超えないようにしなければならない。つまり、設計図書からその室がどう使われるか、つまり事務室なのか、会議室なのか、更衣室なのかを判別し、1次消費エネルギー量を計算して総和を出し、それに対して自身の設計で、必要とする消費エネルギー量が下回っていなければならなくなった。設計途中、あるいは施工中に室の用途が変わった場合は、再度、消費エネルギー量の計算をやり直し、計算書を再提出することになるのだろうか、疑問が残る。近く実施されるであろう、パブリックコメント募集の中で指摘されることを期待したい。
建築物は単に箱だけを見て、エネルギー計算をすればいいというものではないはずだ。人が使ってこその建築である。だからこそ、都合のいいように室内空間は変えられていく。コンピューター化の進展、企業の成長に伴う社員の増加など、室内空間が変わる要素は数多い。それは完成後の結果であるが、そうしたことを見越して設備設計技術者はオーバースペック気味に設計するという。箱だけを見た、ギリギリの1次消費エネルギー量での設計が、室内環境の悪化を招かないことを願う。 (忍)
建設通信新聞 2012年9月20日10面
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