建替えが計画されている辰巳一丁目団地 |
B 入札は設計者選定になじまないという従来からの主張に変わりはないけれど、一方でプロポーザルやコンペは経費や手間がかかるので設計入札の方がいいという本音も聞こえる。
C 後発の設計事務所にとって、設計入札という方式に対応することが規模拡大の最短ルートになる。なんとかして大きくなってやろうと考える設計事務所にしてみれば、「入札制度にマッチした体制づくりに力を入れて何が悪い」ということになる。
A 設計事務所とはいえ営利目的の企業なのだから、経済活動の一環として割り切って考えているというわけか。
C ただ、「入札価格は下げても赤字は出さない」と豪語していた事務所があったが、その事務所に委託した発注者からは「二度と設計してほしくない」とまで言われたという。入札に勝つ体制はできていても、ものづくりの体制は整っていなかったということだろう。
A 都側も緊急対策として基本設計と実施設計を一括発注することを打ち出しているけど、効果はどうかな。
D ちょっと話がそれるかもしれないけど、国土交通省の直轄工事で低価格入札がほぼなくなったのは、調査基準価格を下回れば実質的に落札できない施工体制確認型総合評価方式を導入してからだ。設計コンサルタント業務でも低価格入札が問題になったが、結局、実効があったのは施工体制確認型と同様の「履行確実性評価」だった。本当に東京都が「ダンピング」を問題視しているなら、一定価格以下なら落札できない仕組みを本気で導入しなければ効果はないだろう。中途半端な施策では結局、低価格入札は止められないということが国交省の得た経験則だ。
E そもそも1円入札が恒常化しているということは制度に矛盾があるから。現行の入札制度は一般公募し、資格審査して10者を指名するというものだが、どうにも事務の軽減が目的となっていて、発注者が信頼すべき設計事務所を絞り込むという本来の責任や権限を果たしているようには見えない。だから平気で1円入札するような事務所の応札を抑止できない。こうした状態を前提としたまま基本と実施設計を一括発注したら、1円入札は確かになくなるかもしれないが、むしろ実施設計のダンピングを誘導しかねない。
C 設計入札に最低制限価格を導入すればいいという意見もあるようだけど、そうなったらなったで、みんな最低制限価格に張り付くのは目に見えている。
D 所管する都市整備局では基本設計と実施設計の一括発注はあくまで緊急避難的な策で、根本的な対策としてはプロポーザル方式の導入を考えているという。その本気度がこれから問われるということだ。
B 東京都はかつて設計候補者選定委員会という、建築界からも非常に高く評価されたシステムを運用していた実績がある。これももとは設計ダンピング対策だった。
C 都の対応策がどうというより、設計入札を廃止しようという声が建築界からあまり聞こえなくなってきたことの方が気になる。
B 建築生産プロセスの川上領域にある基本設計が1円や10円でできるものなのか、発注者側にも設計者側にも「そもそも何のために、誰のために」「設計とはどういう行為か」という視点が欠落しているのが一番の問題だと思う。
建設通信新聞 2012年9月7日20面
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