2012/09/03

南海トラフ被害想定が行政に広げるインパクト

震度予想
内閣府が示した南海トラフ巨大地震に伴う被害想定(第1次報告)は、国や地域のあり方を根本から見直す必要性を提示したと言える。防災・減災対策の着実な推進が災害に強い国土づくりにつながり、結果的に被害も大きく軽減できる。ただ各自治体にとっては、発生頻度が極めて低く、いつ起こるかも分からない未曾有の大災害に対して、どのように対策を構築し、どう投資していくか難しい判断を迫られることになる。

◇対策の難しさ

 内閣府は今回の被害想定を広域的な防災対策を検討するためのマクロ的な分析に位置付けており、今後各地方公共団体が個別の地域で防災対策を検討する際には、地域の実情を踏まえた詳細な検討が必要になると指摘している。
 今回の分析は現在の科学的知見で考えられる最大規模の地震を想定したもので、そこに発生確率の概念はない。防災・減災対策が急務であることは理解できる一方で、いつ発生するか分からない未曾有の大災害への備えは容易ではない。

被害予想
◇耐震化と津波対策

 特に今後の防災・減災対策を考える上で、最悪の想定死者数32万人のうち、7割を占める津波への対応は急務となる。
 被害想定では津波による浸水面積(浸水深1cm以上)が最大で1015平方㌔となり、津波高の平均値(満潮位)が5m以上と想定される自治体は13都県124市町村、10m以上は5都県21市町村となることを示した。津波による想定死者数が1万人以上になる自治体は7県(静岡、三重、和歌山、徳島、高知、大分、宮崎)。
 こうした地域では、東日本大震災でも減災の効果を発揮した高規格幹線道路を始めとする社会資本整備の重要性が増すとともに、住宅、庁舎や学校施設といった公共施設を中心に、高台移転の議論が加速する可能性も高い。ただ、高台移転に関しては地域活性化や高齢化などの観点から、反発する動きも強まると見られる。
 建物の耐震対策も、最大で全壊棟数が約238万棟となる想定を受けて重要性が再認識された。限られた予算の中でどのように配分していくか、首長の姿勢がかぎを握る。

◇今秋に被害額想定など公表

 今秋には、土木インフラを始め、長周期地震動の影響といった複数の項目の定量的評価と施設や資産の被害額、復旧費用なども明らかにされる予定であり、各自治体に今回の報告以上の衝撃を与えることになりそうだ。
 被害想定を算出するに当たって、地震動は計5ケースのうち「基本ケース」と、揺れによる被害が最大となると想定される「陸側ケース」の2ケースを抽出。津波については潮位などを加味した計11ケースのうち、東海、近畿、四国、九州のそれぞれで大きな被害が想定される4ケースを設定。地震動と津波を組み合わせた。また、季節や時刻など被害が異なる特徴的なシーンも加味した。最終的な被害想定の算出には建物の築年数の差や液状化による地盤沈下量と全壊率との関係も踏まえている。

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