2012/11/15

【山嵜一也の書を読み海を渡れ(20)】不便利な生活することの利点

ロンドンの通勤電車内
帰宅途中の通勤電車で在留邦人をよく見かける。英国で生活するアジア人として表情は似てくるものの、日系の新聞や文庫本を読んでいるので見分けられる。違う言語環境で揉まれた1日の疲れも母国語のシャワーを浴びればリフレッシュできる。手の隙間から見える書籍のタイトルになんとなく目が行く。「日本を離れるとそういう本を読みたくなりますよね。お疲れさまです」。心の中で呟く。

 英国で生活しながらも、日本語環境を手に入れることが容易になった。
 2001年、極東のハイテク国家からやってきた僕は、英国の遅いインターネット環境に唖然としていたが、今では話題のニュースなどは動画サイトでチェックすることができる。コインで削ったカードの番号を入力し、残り時間を気にしながらに話していた国際電話は、今ではスマートフォンを介し無料で日本へ、しかも相手の顔を見ながら何時間も会話が可能だ。
 自分を追い込まないと英語を獲得できないと思った僕は、日本語の制限された環境を求めて英国にやって来た。多少強引ではあったが、その制限が新しい言語や生活習慣への対応を手助けしてくれた。また、母国語の情報が制限されると自然と自己と向き合う時間も増える。しかし、便利になるほど、不便さによる制限を享受するのが逆に難しくなる。これはあらゆるものが繋がる世界の中で生きていくもうひとつの難しさだと思う。
 その制限の中での格闘の先に、補助線を引くようなひらめきが生まれるのだと脳科学者である著者の言葉で再確認した。制限があるからこそ、獲得できること、生み出される考え方というのがある。それはデジタルに置き換えられない敷地や建材で人間の身体を守るという制約、そしてさまざまな与条件に縛られる建築というものを考えることにも似ている。
 これからは日本の書籍を発売日に電子書籍として英国からも読めるのだろう。しかし、向かいに座る人の手の隙間から見えるのは、そのデバイスの味気ない“背表紙"だけだ。便利だけれど寂しい気もする。
 (コラムからあふれた日常をツイッターでつぶやきます www.twitter.com/yamazakikazuya)
AmazonLink 『思考の補助線 (ちくま新書)』

The advantage of an inconvenient life
On the tube train way back home, I saw Japanese people sometimes. Although theylook similar as other Asian people, it is easy to recognise them because they read Japanese newspapers or paperbacks. We refresh with taking a shower of mother language text after working hard in the different language environment. I glance the title on the cover in their hands and talk to myself, "I agree with your choice. We would like to read that sort of book especially after leaving Japan"
Nowadays, it is getting much easier to have Japanese language environment even in the UK.
In 2001, when I arriving in the UK from the far east and high-tech country, I was totally disappointed by the very slow internet connection. We, however, can watch the news from Japan on the video sharing website. The international phone call with scratching the phone-call-card and worrying about the remaining minutes is now replaced by the free internet call on own smart phone and we can talk as long as we want.
I thought that I wasn't able to improve myEnglish skill without putting pressure on me. Therefore, I came to the UK to live and work in the limited Japanese environment. Although it was a slightly tough job, now I can say that the force of restriction helped me to cope with the different language and lifestyle. Time looking into ourselves naturally is provided in the limited language environment. However, as our life is getting more convenient, on the contrary, it would be less opportunity to have the restriction. It is another difficult aspect to live in the world connected by internet, such as globalized international community.
After reading the book written by the brain scientist, I convinced that the struggling in the limited environment would spark new ideas as if drawing additional lines. There are ideas and thingsmade by under the limited condition. It is similar concept to design architecture because there are restrictions of site and materials which are irreplaceable by digital materials and of project's condition on its process.
We will soon be able to buy and read the Japanese books easily and instantly on theelectric book reader in the UK. I, however, can see only the dull back of the electric device between hands of the person who seats in front of me. It would be more convenient, but it might be boring.
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年11月15日12面


Related Posts:

  • 東京ガス建築環境デザインコンペ/最優秀に「回り窯のレシピ」(吉田清人氏ら) 「回り窯のレシピ」  東京ガスが主催する「第25回建築環境デザインコンペティション」の公開審査会と表彰式が11月29日、東京都千代田区のホテルニューオータニで開かれ、最優秀賞に吉田清人氏(KAJIMA DESIGN)らの「回り窯のレシピ」が選ばれた。壊れた登り窯を修復する過程で、人と人、人と場所とのつながりを生み出す提案が高く評価された。 コンペの課題は「場所に向かい合うコミュニティ施設」。海外を含め137点の応募があった。最優秀などに4点… Read More
  • 元JIA会長、元日建設計副社長の林昌二氏が逝去  半世紀にわたって日本の建築界をリードしてきた建築家の林昌二(はやし・しょうじ)氏が11月30日、病気のため死去した。83歳だった。妻は建築家の故林雅子さん。  1953年に東京工大卒業後、日建設計工務(現日建設計)入社。77年常務東京本社代表、80年副社長に就任。93年からは副会長、最高顧問などを務めた。日本建築学会・作品賞を受賞したポーラ五反田ビルを始め、三愛ドリームセンター(東京都中央区)、パレスサイドビル(千代田区)、中野サンプラザ、… Read More
  • AIA JAPANデザイン大賞を受賞/佐々木設計事務所  佐々木設計事務所の佐々木龍一代表と西村和哉氏が、米国建築家協会(AIA)北西部・太平洋地域日本支部が主催する「AIA JAPANデザイン大賞」を受賞した。 受賞作品は、BASE南青山(東京都港区)。佐々木氏は、2007年に続いて2度目の同賞受賞となった。 受賞作品は、18タイプのユニットで構成する小規模商業複合施設。筒状の構造体がずれながら並び、隙間から光が内部に差し込む。レイヤー状のラインプリントとガラスが重なり合い、特殊な奥行き感と内外… Read More
  • 三和シヤッターからEV充電コンセント付きのシャッターが発売される  電気自動車の充電用コンセント付きシャッターゲートが登場した。三和シヤッター工業が全国発売したもので、電気自動車の充電可能なゲートは業界初という。 同ゲートは、戸建住宅用シャッターゲートのロングセラー商品の柱内に電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の充電用屋外コンセントを組み込んだ商品。シャッターゲートの柱内に配線を通すので、すっきりとした外観を実現した。料金の安い深夜電力を利用して充電することができる防雨型タイマーもある。 商品名は「E… Read More
  • 隈研吾氏が設計する「スターバックス」/福岡の太宰府に出現!  建築家の隈研吾氏の設計によるコーヒーチェーン店「スターバックスコーヒー」が、福岡県の太宰府天満宮の表参道に完成した。16日からオープンする。木造平屋建てで、内部空間はXの形で組まれた60mm角のスギ材が約2000本使われた=写真。 スターバックスコーヒージャパンによると、木組み構造がモチーフで、太宰府天満宮のシンボルの梅が庭に植えられるなど、これまでのスターバックスにはない新しいデザインの店舗だという。世界的に見て、建築家とコラボレーション… Read More

0 コメント :

コメントを投稿