2012/11/04

【連載・GSAのBIMマネジメント(7)】デザインと施工検討を「統合」

IPD(Integrated Project Delivery)
BIMによる生産性向上の効果を実現させるためには、単一の組織内の努力だけでは限度があり、組織間で協力しあうことでさらなる効果が期待できる。米国では、BIMの普及にあわせて、チームの「統合作業」を重視したIPD(Integrated Project Delivery)と呼ばれる契約手法が生まれた。米国建築家協会により、2007年12月にガイドが発表され、翌08年5月に標準契約書が公表された。

 IPD手法の特徴としてまず着目されるのは、フロントローディングに対応した設計工程を定義し直したことである。従来の設計施工分離方式では、What(設計内容)をまず決め、次にHow(施工方法)を検討し、設計図書が完成したら、Who(施工者)を入札で決めるという段階を経る。ただし、これでは設計段階で施工について施工者のノウハウを活かせない。そのためIPD手法では、Whoを早期に決定し、デザインを考えながら並行してHowを検討することとしている。
 設計作業をスピードアップするには、発注者が設計に積極的に関与し、設計者や施工者から示された提案に次々と判断を下していく必要がある。そのためには透明化されたコスト(原価)情報が欠かせない。従来の設計施工分離方式はトータルの工事金額で契約(総価契約)するものであり、発注者は原価を知る立場にない。元請けは協力会社と価格交渉をすることで、さらなる利益を得る余地があるため、価格と品質のバランスが崩れがちになり、原価も不透明となる。IPD手法では原価とフィーを切り分けて透明化(オープンブック)し、さらに施工の工夫で得られた利益を関係者間で分配することで、原価を圧縮してフィーを増大させる圧力を生産性向上のインセンティブへと向かわせる。
 分配するのは利益だけでない。法的責任についても同様に分かち合う。過失が発生する原因は皆が設計段階で共有している情報に内在するからである。米国では70年代から施設の利用者による瑕疵により受けた被害を主張する訴訟が急増し、賠償責任危機が発生した。責任を明確にするため、作業範囲は分断され、担当者間の協力関係は断絶された。IPD手法で、担当者は法的責任の呪縛から解かれ、自らの責任範囲以外にも自由闊達に意見を言うことができるようになり、より有益なアイデアが生まれるようになる。
 IPD手法は、医療施設など高度複雑化した施設のプロジェクトを中心に徐々に採用が増え、成果を上げつつある。ただしGSAでは設計と施工の作業の統合は試みているものの、法的責任のシェアがネックになり、まだ正式採用にはいたっていない。一方、日本で導入するにあたってもっともハードルが高いのは、総価契約方式からコスト+フィー方式への転換であろう。米国ではすでにCM方式の導入時にオープンブックが実現されている。BIMで設計プロセスが効率化し、スピードアップしたとしても、不透明なコストがその足かせとなっては甲斐がない。
内閣府沖縄総合事務局開発建設部営繕課長 大槻泰士

建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月17日 10面


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