国土交通省の「担い手確保・育成検討会」で明らかになった公共工事設計労務単価の推移が極めて印象的である。
1997年から2012年までの全職種単純平均と、鉄筋工、型枠工、大工について示されている。各職種とも見事なほど一貫して低下を続けている。この間に全職種で約30%、個別職種では37%の低下もある。それでも単価の絶対水準が高ければよいが、実態は違う。97年で2万3000円から2万5000円だったものが、12年は1万5000円から1万6000円台だ。
この単価には「基準内給与等」に賞与なども加わる。残業は含まれない。月に20日働くと仮定し、12倍すれば年収の目安がつく。97年で約600万円、12年ではほぼ400万円というレベルだ。ただし厚労省の統計では97年はもっと低い。この収入を少しでも増やそうと思えば、残業や休日出勤を増やすことが手っ取り早い。だがそれは長時間労働などの問題に跳ね返る。
12年の単価では、入職して間もない若手ならともかく、ベテランまで含めた水準としてはあまりに低すぎる。しかも仕事場は屋外主体、将来の保証も乏しい。担い手が減るのも当然の結果ではないか。
冒頭の検討会では、専門工事業の評価の仕組み、資格やキャリアパスの見える化、処遇改善、若者への現場の魅力発信、戦略的広報などがテーマに挙げられているという。
これらの検討に異論はないが、一番の問題意識をどこに据えていくか、それが重要ではないか。専門工事業者の企業評価を行う、それがどのような道筋で職人の賃金上昇につながるかを描き出すことができるのだろうか。
◇優良職長は年収1000万円
「将来を見通しても年収は400万円程度、退職金なども乏しいし、継続雇用の保証もない」。そう聞かされては、いくら現場の仕事は楽しいと伝えたところで、若者にとって魅力的には見えないだろう。
バブルが崩壊してしばらくしたころ、大手ゼネコンで長年現場を担当してきた役員と話す機会があった。いわく「優秀な職長には年収1000万円、そうならないとダメだよね」。建設業界には賛同する人も多くいるだろう。
賃金が上がれば入職不足も解決するというのは言葉が過ぎよう。だが上がらないことには何も良い方向には進まないのではないか。いっそのこと、望ましい賃金水準を設定し、その実現には何をすべきかを徹底検討してみたらどうだろう。当面の目標は97年水準でも良い。その先は優秀な職長で1000万円におこう。
経済の原則に従えば、このまま放置して職人が急速に不足すれば、賃金は反発しよう。だがそれをただ待つわけにはいかない。思い切った発想でのアプローチが必要なときを迎えていると思う。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年11月2日12面
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