2012/11/01

【対談】伊東豊雄×釜石市長 「未来のまちプロジェクト」について語る


◇100年先見据えた復興

 岩手県釜石市がスタートさせた「かまいし未来のまちプロジェクト」は、主要施設の計画・設計を担うパートナーを公募型プロポーザルで選び、民意をくみ上げながら施設づくりを進める新しい形の復興となる。専門家の支援を得ながら、市民・行政・事業者が一体となり、長く愛され使い続けられる施設を増やし、それらを点→線→面へと広げていく。復興アドバイザーとしてプロジェクト立案の中心的な役割を果たした建築家の伊東豊雄氏は「安全・安心は当然として、美しい釜石を力を合わせてつくっていきたい」と気持ちを込める。

◇伊東氏 「実現可能な点から線、面に」

 伊東氏は、建築家5人による帰心の会を設立、仙台市宮城野区や岩手県陸前高田市などで被災者のための「みんなの家」プロジェクトを展開している。都内で行われた野田武則釜石市長と伊東氏の対談で、野田市長は「“みんな"という言葉が印象的だった。その後に絆やつながりが生まれる」と、地域にかかわる人がともに考え、共有する重要性を訴えた。その上で「ここからが正念場。“みんな"でつくることを具体的に説明する出発点となる」と同プロジェクトにかける思いを語った。
 同プロジェクトは、伊東氏がコミッショナーを務める熊本県の「くまもとアートポリス」に近いかたちで施設づくりが進むことになる。伊東氏は「今回はまちの相当大きな部分が失われてしまった。一刻も早く必要なもの、特に集合住宅をつくらなければならない。制約が多い中で100年先を見据えたまちをつくるという点が重要となる」と、アートポリスとの違いについて説明した。

◇野田市長 「早くつくるジレンマ超えて」

 野田市長も「将来にわたって安心できるまちにするには、じっくりていねいにつくらなければならない。一方で、早くつくらなければならないというジレンマに陥っている。そこに専門家の知恵やアドバイスが必要になってくる。ジレンマの中で被災者が『つくるなら良いものをつくろう』と思ってくれるような信頼関係を築きたい」と抱負を述べた。
 プロジェクトについては、地域会やまちづくり協議会を交えた議論を通じて、市民とのパートナー関係を醸成することになる。
 同プロジェクトでつくられる建築は、最初は地域の中の「点」でしかない。伊東氏は「くまもとアートポリスは、点の建築をネットワークでつないで線にして、いずれはまちに面として広がっていくことを期待して始まった」として、釜石でもまず実現可能な「点」から始め、市民の信頼を得ながら線、面に広げる考えを示した。
 また、「釜石らしさを目標にまちづくりを進めたい」という野田市長の言葉を継いで、伊東氏は「急傾斜地など自然に近い場所に建築をつくらないといけない。自然を大切にしながら、そこになじむ形で新しい建築をつくることが、未来の釜石をつくることになる」と答えた。

◇「かまいし未来のまちプロジェクト」の概要

 かまいし未来のまちプロジェクトは、復興ディレクターである伊東氏、小野田泰明東北大教授、遠藤新工学院大准教授の3氏とアドバイザー、市で構成する「釜石復興ビジョン会議」が所管する。対象となる主要プロジェクトは、3氏を審査委員として公募型プロポーザルを実施。また、同会議は基本構想策定から施工、管理・運営までを指導する。
 事業の目標として掲げている①津波に屈しない希望を持てる地域づくり②住む人に優しい人間らしいまちづくり③自然と共存するサスティナブルな環境づくり④相互信頼に基づいた自律型のガバナンス⑤長期的視点に立った経済的合理性--を共通理念として、異なるプロジェクト、異なる設計者でも同じ価値観で施設をつくることになる。
 民意をくみ上げる仕組みとして市民参加型のワークショップを開き、ともに信頼できる関係を築く。
 現在、同プロジェクトの第1弾となる災害復興公営住宅(東部地区天神町)のプロポーザルを実施しており、11月下旬に設計者を選定する。第2弾は同(小白浜地区)で、11月末にプロポーザルの公募を始める。
 続けて唐丹小・中学校、鵜住居小・中学校は2013年4月の公募開始を目指して準備を進めている。
 市内の復興公営住宅への入居意向調査では、1,000戸以上の建設が必要になっており、「すべてではないが、かなりの部分はプロポーザルになる」(野田市長)。
 いまのところ復興公営住宅と学校がプロジェクト対象となっているが、今後は「市民会館のような市民が集う大きな施設、市役所など、検討すべきものは多くなる」(同)予定だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年11月1日12面

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