長崎本線諫早駅から1両編成の島原鉄道に乗り、島原を目指す。車窓の左手におだやかな田園地帯と海、諫早干拓の場である。歴史的にも紆余曲折があり、筆者も若いころ、農林水産省との調整を担ったことを思い出した。完成後の迷走とも表現できる状況にも、海は静かに陽をあびていた。
島原が近づくにつれ、普賢岳の姿が目の前にひろがる。筆者は92、93年と2回にわたり島原を訪ねた。それ以来、約20年ぶりだ。
1993年の水無川流域 |
現在の水無川流域 |
◆火山はまだ生きている
いまだに噴煙を上げる火山 |
国交省九州地方整備局雲仙復興事務所の佐藤保之所長によると、いまも年数回程度は土石流が発生している。平成新山の山頂には、人間の数百倍以上の大きさの不安定で巨大な岩石群が存在し、過去14年間で約1mの移動が観測されているとのことだ。
土石流による壊滅的被害(発災当時) |
完成済みの砂防施設。土石流をくい止める |
長雨によって大量に流出した土石流(発災当時) |
◆ロボット工学の権威も賛辞
当初は、工事関係者の避難体制に万全を期し、有人で土石流堆積物の除石工事を実施していたが、94年には本格的な無人化施工への移行に向け、試験工事に着手した。この年には、熊谷組を含め6社の技術が採用された。無人化施工技術は、▽施工方法・機械選定▽遠隔操作▽映像・データ伝送▽施工管理・施工支援--という、大きく4つの要素技術の集大成であると言われている。
ちなみに、国内初は69年の常願寺川災害の際に投入された、水陸両用ブルドーザーであるとされている。その後、無人化ケーソン掘削における無線操作方式のバックホウなどが開発されてきた。
縦横無尽に動き回る建設機械。運転席に人の姿はない |
遠隔操作は固定カメラ、移動カメラ車、重機車載カメラの各映像を見ながら、熟練のオペレーターが建設機械を動かすものである。
加えてこの現場では、GNSS(全地球衛星測位システム)を使用した情報化施工システムを導入している。具体的には、「無人測量システム」「バックホウガイダンスシステム」「排土板制御システム」「転圧管理システム」の4システムだ。
無人化施工と呼ぶよりも、『無人情報化施工』と言った方が、正確に現場の実態を表現できるはずである。熊谷組に代表される日本の無人化施工技術は、世界でも他の追随を許さないものであろう。
96年、ロボット工学の世界的権威で米カリフォルニア大バークレー校のローレンス・スターク教授が、この現場を視察した。同教授は「スペースシャトル以外で、これほど高水準のロボット実用例は見たことがない」と最大級の賛辞を贈ったそうだ。
◆超長距離の遠隔操作にめど
東日本大震災で、福島第一原子力発電所事故が発生した。現地の状況はマスコミを通じて断片的にしか入ってこなかったが、事故発生直後の現場では高濃度の放射能下で、がれき処理などの過酷な仕事が行われていた。
当時筆者は国交省技監の職にあり、震災の応急復旧対応などに忙殺されていたが、原発事故、さらには今後の大規模災害の対応には、建設業界で培われた無人化施工技術が必須であると判断し、超長距離無人化施工技術の導入可能性の検討を指示した。
今回の取材には現在、3次元仮想現場構想の確立に向けて奮闘している先端建設技術センターの八尋裕先端建設技術研究所研究第一・第二部長に同行いただいたが、その先端建設技術センターと建設無人化施工協会メンバーの献身的な協力を得ながら、機械、電気通信担当を中心とする国交省職員が文字どおり心血を注いで検討を行った。
雲仙の現場ではこれまで、重機操作はせいぜい1㎞未満の距離から実施していたが、30㎞以遠という超長距離から操作する実証実験を、2011年3月から4月にかけて行った。結果として、超長距離の遠隔操作は可能と確認されたほか、燃料給油の完全無人化や現場に適した通信システム構築の必要性などといった課題が整理された。
今回の現場で行われている実際の操作は1㎞未満の距離からだが、この実験成果を活用した「ネットワーク型次世代無人化施工システム」(超長距離遠隔操作システム)が採用されている。今後の特殊あるいは大規模災害には、実証実験の成果とそれを踏まえたこの現場の経験が、大いに役立つはずである。
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