2016/04/05

【現場最前線】「見えない屋根」の下でものづくり・人づくり 沼南調整池築造工事


 P-3C型対潜哨戒機などが離着陸を繰り返す海上自衛隊下総航空基地の正面に位置する、千葉県柏市の同県水道局沼南給水場用地内で、飛島建設が調整池の築造工事を行っている。現場上空が基地滑走路の直線上にあるため、高さ制限が課せられた厳しい施工条件の下、現場を指揮する山口澄靖所長は「レーザーバリア警報システムを設置するなど作業時に制限高さを越えないよう工夫しながら、慎重に施工を進めている」と説明する。

 沼南調整池築造工事は、千葉県、松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、習志野市、八千代市の1県7市に水道用水を供給する北千葉広域水道企業団が発注。災害や水質事故で流山市に所在する北千葉浄水場から送水できなくなった場合に備え、沼南給水場の敷地内に新たな調整池を設置する。

現場上空を下降する自衛隊機

 工事では、約1万㎡の広大な敷地の東側に1号調整池、西側に2号調整池を築造。その有効容量は1池2万6700m3の合計5万3400m3。1池当たりの規模は長さ113m、幅40m、内空高7.8mで、調整池の築造に加え、場内連絡管の敷設、電気設備などを担う。工期は2015年2月20日から18年3月23日まで。
 通常であれば桟橋を仮設し、躯体構築を一気に進めることもできるが、高さ制限に加え、東側に既設配水池があり、西側と南側にしか現場を出入りするゲートを確保できないため、「1池の躯体を6ブロックに分けて北側から順次構築を進めている」(斉藤行治現場代理人)という。
 その手順は、1号、2号調整池の各1、2ブロックを同時に構築し、それを3、4ブロックまで進め、作業ヤードの確保が難しい東側の1号調整池の5、6ブロックを先行して構築後、西側の2号調整池の5、6ブロックを構築する流れ。取材当日は1ブロック目の底版コンクリート打設が完了し、壁部分を施工している段階だった。
 高さ制限により、施工基面から高さ12-14m以内での作業が求められる。構造物の高さが9mあるため、その上空はわずか3-5mの空間しかなく、「まるで見えない屋根が架かっているようなもの」と山口所長は表現する。

レーザーバリア警報システム

 このため、レーザーバリア警報システムを現場の東西南北に1カ所ずつ設置。制限高さからマイナス0.5mにレーザーバリアを張り巡らせた。そのバリアにラフタークレーンやコンクリートポンプ車のブームなどが接触すると警報が現場に鳴り響く。制限高さからマイナス1mの位置には赤い明示旗も掲げている。
 取材当日も現場上空を基地に向かって降下する自衛隊機が姿を見せ、その距離の近さに驚かされた。斉藤現場代理人は「外周を親杭横矢板、鋼矢板で土留めしており、親杭を打設する際、通常であれば一般的な杭打ち機を使用するが、高さ制限で使えないため、アースオーガ付バックホウで低い位置から打設し、鋼矢板も2分割して短くしたものをつなぎながら圧入した」と振り返る。
 着工して1年が経過し、重機主体の掘削工事から人が主体の躯体工事へと移り、最大100人規模の人員が作業に当たる。「高所や狭あいな場所での作業もあるため、安全設備に留意し、コミュニケーションを取りながら無事故・無災害で竣工させたい」と斉藤現場代理人は表情を引き締める。
 17年4月をめどに躯体工事が完了し、その後、埋め戻し工に入り、内部の設備工事などを並行して行う予定。山口所長は「若手の技術職員が多く配置されているが、土工、躯体、設備など工事が多岐にわたり、勉強になるため、ものづくりと人づくりを一緒に進めていきたい」と明かす。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【現場最前線】鉄骨建方精度は万全! 長野駅新駅ビル(仮称) 新築他 2015年3月の北陸新幹線金沢延伸開業を見据え、長野市が実施する長野駅善光寺口駅前広場整備に合わせる形で、東日本旅客鉄道(JR東日本)が進めている同駅改良工事や善光寺口の新駅ビル新築などの工事が大きな節目を迎える。25日から仮設通路を閉鎖して東西自由通路に切り替え、11月21日には既存駅ビル(MIDORI長野)と新駅ビルの各一部フロアが東西自由通路と直結し、先行オープンする。新駅ビルなどの施工を担当する鉄建・大林組JVの河合和彦作業所長は「… Read More
  • 【次代を担う】新鉄鋼ビル建替計画(仮称)佳境を迎えた現場 首都大学東京・寺村大真 戦後の高層オフィスビルの草分けとして知られる第1鉄鋼ビルとそれに隣接していた第2鉄鋼ビルを建て替えるプロジェクトが佳境を迎えている。建設地はJR東京駅八重洲北口に隣接し、外堀通りと永代通りに接する。その(仮称)新鉄鋼ビル建替計画現場を首都大学東京都市環境学部建築都市コースの権藤研究室、芝浦工業大学工学部建築工学科の蟹澤研究室と志手研究室の学生計9人が訪ねた。リポーターは権藤研の寺村大真さん(4年生)。 ◆朝7時30分八重洲集合 引率の権藤先… Read More
  • 【現場最前線】基礎の90%をプレキャスト化! 省人化徹底で挑む吹田市立スタジアム 大阪府吹田市の千里万博公園内で、4万人を収容できる(仮称)吹田市立スタジアムの建設が進められている。この現場では、竹中工務店の設計施工案件であることを生かし、両部門が連携して着工の1年以上前から現場作業を極限まで減らすための検討・実験などを繰り返し、基礎のプレキャスト化を実現。以降の工程でも徹底した省人化を図っている。  このプロジェクトは、国際サッカー連盟や日本サッカー協会の新基準を満たすサッカー専用スタジアムを建設するもの。サッカー界と… Read More
  • 【現場最前線】安全・効率を堅持! 巨大仮橋から上下部工一体施工 新名神 坊川第三橋工事 大成建設が上下部工一体の施工を担当する「新名神高速道路 坊川第三橋工事」では地上に作業ヤードが確保できないため、施工区域全域に構築した長さ約800m、広さ約9800㎡の巨大仮橋上からさまざまな作業が進められている。最高高さ約40mでの高所作業、狭い作業スペースに、他工区の排出土運搬ルートにも併用されている仮橋上を1日約200台のダンプが往復するという特殊条件が加わる。厳しい条件下で基礎、下部、上部工事が同時進行し、最盛期を迎える現場で陣頭指… Read More
  • 【現場最前線】国内最深72mの発進立坑を掘削 JSの芝浦~森ヶ崎連絡管工事 前田建設工業・鴻池組JVが建設する深さ71.8mの立坑 日本下水道事業団(JS)は、国内最大深度まで掘削する立坑工事を行う東京都芝浦水再生センター・森ヶ崎水再生センター間連絡管建設工事現場と、MBR(膜分離活性汚泥法)の実用化実験を行う技術開発実験センターを公開した。 連絡管建設工事は東京都下水道局から受託。発進立坑は前田建設工業・鴻池組JVが受託し深さ71.8mの立坑を構築している。この深度での掘進は「日本で最深度クラス」(菅井雅之日本… Read More

0 コメント :

コメントを投稿