2014/03/25

【訃報】佐野正一氏 武士の気骨、作品にも業界発展尽力にも

佐野正一氏
「豊かな人間生活を築くために役立ちたい」と建築家を志し、半世紀以上にわたって、建築界をリードしてきた関西の重鎮・安井建築設計事務所代表取締役相談役の佐野正一氏(さの・しょういち)が20日、腎臓疾患のため死去した。93歳だった。葬儀は既に近親者のみで済ませており、後日お別れの会を開く予定となっている。
 佐野氏は1921(大正10)年、大阪市生まれ。42(昭和17)年に東大建築学科を卒業、旧鉄道省(後の国鉄)に入る。海軍の技術士官として太平洋戦争にも従軍、戦後は国鉄に復帰していたが55年に退官して岳父・安井武雄の主宰する安井建築設計事務所に。武雄氏の死後、61年に社長に就任し国鉄や官公庁、民間ビルなどの設計を次々と受注。同事務所を日本有数の組織事務所に育て上げた。89年に同社会長に就き、長男・吉彦氏の社長就任(97年)後も代表取締役相談役を務めた。
 事務所経営の傍ら公職も歴任し、建築士事務所の地位向上に尽力した。なかでも日本建築士事務所協会連合会(日事連)での活動はめざましく、故塚本猛次氏(元日建設計社長)とともに75年の日事連発足時には「牽引役」を務めた。その後90年から94年まで日事連会長に就任。下部組織である大阪府建築士事務所協会でも90年から04年まで、日本建築協会でも84年から94年まで会長を務めた。85年に藍綬褒章、91年には勲三等瑞宝章を受章している。2002年には建築団体の再編を訴え、その先駆けとして大阪事協と大阪府建築士会(大阪士会)の統合を提唱するなど、常に業界のあり方について発信していた。
 代表作品は大阪国際空港ターミナルビル、大阪ターミナルビル「アクティ大阪」、サントリーホール、大和銀行(現りそな銀行)本店ビル、京都競馬場スタンドなど。サントリー山崎蒸溜所(59年度)と旧国鉄新幹線停車場(60年度)では日本建築学会賞を受賞している。
 自身は大阪生まれだが、祖父の代まで長崎県島原の徳川親藩の島原藩に仕えていた。終生、武士(もののふ)の気骨を持ち、全国各地に送り出した作品にもその精神はあふれ「技術の裏付けがあってのデザイン」と常に語っていた。
 なかでも旧制浪速高校時代の学友であるサントリーの故佐治敬三氏から設計を依頼された『サントリーホール』では「ホール建設のため、カラヤンにも会いにいったが、あそこまで彼が音楽に造詣が深いとは思わなかった」「彼に任せておけば、クライアントだけでなく、社会にとっても得ることが大きいと納得させられた」と佐治氏は語っている。佐野氏を語るのにふさわしいエピソードだ。
 ずっと父の背中を見てきた吉彦氏は「技術者としての誠実さと誇り、そして社会に対する責任感があり、自らを律し、人を厳しく育てた人。それは生涯変わることがなく、叱責や鼓舞を通じて目的に向かって執念をもって取り組むことの大切さを伝えていたように感じる」と話す。
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