2014/03/23

【建築】JIA新人賞の長田直之氏 空間のメリハリが生む「流動性」

「Yo」4つの立方体を接続した特徴的なデザイン
「やっと建築家になれたような気がする。いままで積み重ねてきた経験に基づいてチャレンジした住宅『Yo(ワイオー)』で受賞できて良かった」。日本建築家協会(JIA)のJIA新人賞を受賞した長田直之氏(ICU)は受賞の喜びをそう語る。『Yo』の講評では、審査員の岸和郎氏がそのデザインについて「ぞんざいといっていいような取り付けディティール。それに対して内部空間の妙に小さなスケールと繊細な扱い。そうした、そこここに仕込まれた奇妙なずれや齟(そ)齬(ご)が、結果として建築全体にそこはかとない、奇妙な違和感をもたらすことに成功している」と語っている。「美学的」とも評される『Yo』。その違和感と魅力の源泉はどこにあるのか、長田氏に聞いた。
 『Yo』でまず目を引くのは、4つの立方体を接続した特徴的なデザインだ。「バラバラだけど一体感のある、流動化した建築を目指した」と振り返る。自宅や職場とは異なる第3の居場所を設計してほしいというクライアントの要望に応えるうちに「複数の居場所を移動しながら生活するクライアントのライフスタイルにふさわしい、暮らしの中で複数の空間をつないだ住宅になった」という。
 こだわったのは空間を『流動化』させる試みだ。
 「全体で『流動性』を持った空間をつくろうと意識すると、かえって空間は均質化してしまう」と指摘する。
 4つの立方体の配置には最大限の注意を払い、それぞれの配置を微妙に歪ませることで開口部から見える雑木林の景色や光の入り方に変化を付けた。「明るく広い部屋の隣には暗く狭い部屋が共存することで空間のメリハリが生まれ、魅力になっている」と自ら分析する。
明るく広い部屋の隣に暗く狭い部屋が共存することで空間のメリハリが生まれた
その結果として審査員の講評では「紙の上の建築像と、現実にそれが建つ場所に足を運んで体感する建築像とはまるで異なっている」(岸和郎氏)、「現地を見てみないとわからない」(小泉雅生氏)、「その本当の魅力が紙面上ではくみ取りづらい」(冨永祥子氏)と実物と資料との大きな開きがあることを繰り返し指摘され、実物が持つ周辺環境との調和や空間の魅力が高く評価された。
 現在、『Yo』は住宅として使用されるだけでなく、クライアントが自社製品を展示するショールームや写真撮影スタジオとしても使われている。また日常の住宅として使用する際にも、それぞれの立方体の内部の機能を季節に応じて入れ替えながら生活しているという。
 「異なる印象の空間を集めることで空間が流動化する瞬間がある。最初から流動性のある空間をつくるのではなく、流動化する瞬間に生まれる魅力を生かしたい」と力を込めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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