2014/03/13

【津波対策】ソフトを突き詰めればハードが重要 黒潮町の取り組み

黒潮町役場(photo:Bakkai)
南海トラフの巨大地震で、国内最大となる津波高34mが想定されている高知県黒潮町。絶望的ともいえる津波高さを内閣府から2年前に示され、町民は不安と混乱、あきらめを経験したが、大西勝也町長は、「災害と向き合うことはより良い人生を実現することだ」と指摘する。土木学会が3日に東京・虎ノ門で開いた震災から3年のシンポジウムで、町と住民の取り組みを紹介した。
 町の対応は、「細分化」「推進体制」「コミュニケーション・ボリューム」の3つが大きな特徴だ。津波のあまりの高さに手の打ちようがないというのが実感だが、「課題が大きすぎるのであれば、手が打てるくらいまで課題を細分化した」。町内の地区を細かく分けることや、課題の構造を分解して対処しやすくした。

◆ハードから着手
 町の南海地震対策係は係長と係員の2人しかいなかった。今後発生する膨大な実務をこなすため、2012年度に職員約200人全員で取り組む体制に改め、職員が町内61地区をそれぞれ担当して、防災に携わることにした。職員は担当地区のハードの課題を整理して、防災インフラの整備計画に反映した。
 なぜハードの施設から着手したのか。「ハードは取っかかりが容易だが、ソフトは高度なコミュニケーション能力が必要になるからだ」と説明する。浸水地域の個別避難カルテを作成するため、ワークショップ(WS=対話集会)を開いたが、10-15軒の班単位に絞ることで欠席しにくくなるという効果があった。
 12年4月からことし1月までの約2年間で、620回のWSや避難訓練などを実施、町の人口の2倍に相当する延べ2万4757人が参加した。「これはかなりのボリュームにみえるが、視点を変えると1人が1年間に1回参加しただけで、(数字の)インパクトが薄れる」

◆危機感を克服 
 行政が開催するのは、効果を考えるとこれが限度のため、コミュニケーション・ボリュームが不足しているのであれば、民間主導など実施主体の多様化が必要という。これまでの取り組みでもう1つ分かったことは、「ソフトを突き詰めれば突き詰めるほど、ハードの重要性を実感した」ということだ。
 南海トラフの巨大地震は、30年以内に70%以上の確率で起きることが予測されている。「ハードは30年後に計算された効果が出る。ソフトの効果を30年後に出そうとすると、それ相当のプログラムと覚悟がいる。いまのコミュニケーション・ボリュームでは足りず、やるからにはプログラムの質も改善して、ソフトでやるという腹をくくらないといけない。なんでもソフトで補完するという論調には危機感を覚える」
 一方、被害想定では町民の5人に1人が亡くなるという数字も示された。町民にあきらめの感情が生まれ、避難放棄の考えすら広がったが、コミュニケーションを活発にすることでそれも克服した。「危機感を持っているのは、(町民が)町をあきらめてしまうことだ。居住地として適切でないという判断、震災前過疎は潜在的にかなりある。これとどう対峙(たいじ)していくか、わたしたちに課せられた大きな使命である」
 この3年間、抱いていた違和感として、「自分たちは想定される物理的事象、砕いていうと数字と向き合ってきたのではないか」と述べる。災害の本質と向き合うことこそが必要で、それは命と向き合うことと強調する。「災害だけでなくさまざまなリスクの中で、命のはかなさ、尊さを理解して、日々を一生懸命に生きる。この積み重ねによってより良い人生を実現していくことだ」と。
 10年後に振り返ったとき、34mの津波想定が示されたおかげで、黒潮町が助け合いや思いやりのあるまちになったと言えるようにしたいと将来像を描く。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

Related Posts:

  • 【復興現場最前線】ドローンも活用! 早期完成・耐久性向上に創意工夫 三陸沿岸道路・唐丹第1、第2高架橋 震災復興のリーディングプロジェクトとして、東北地方整備局が異例のスピード感をもって整備を進めている三陸沿岸道路。事業着手から5年目を迎え、多くの工事で主要構造物の姿が目に見えるようになってきた。このうち、南三陸国道事務所(佐藤和徳所長)管内で行われている主な工事現場を紹介する。写真は唐丹第1高架橋上部工。ドローンが飛行している。  釜石唐丹インターチェンジ(IC)と釜石南IC間にある3つのトンネルと2つの高架橋すべての構造物を構築する「国道… Read More
  • 【復興現場最前線】唐桑高田道路で進む気仙トンネル、340号函渠工、新気仙大橋工事 唐桑高田道路は、宮城県気仙沼市唐桑町舘の唐桑北インターチェンジ(IC)から岩手県陸前高田市竹駒町相川の陸前高田ICを結ぶ長さ10㎞の路線だ。県境をまたいで宮城県内区間が2㎞、岩手県内区間は8㎞。現在は用地取得とともに橋梁、トンネル、改良の各工事が並行して進められている。写真は順調に掘削が進む気仙トンネル。 ◆気仙トンネル 施工=鉄建 昼夜作業で掘削、15年内貫通 その主要構造物の1つとして、陸前高田市気仙町字荒川沢~同市矢作町大嶋部間に築造… Read More
  • 【三陸沿岸道】石巻女川ICが10月4日開通 東北整備局  東北地方整備局が、三陸沿岸道路・矢本石巻道路に整備を進めている石巻女川インターチェンジ(IC)が10月4日に開通する。同ICから石巻赤十字病院に直接アクセスできるようになるほか、東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県女川町の復興支援や石巻市街地の混雑緩和などの効果が期待される。  石巻女川ICは、矢本石巻道路の石巻河南ICの北約2㎞の地点に設置。現在、近接する石巻赤十字病院への搬送には救急車退出路が使われているが、同… Read More
  • 【復興特別版】今日だけ高速道路が“遊園地”に! 工事中の三陸沿岸吉浜道路を1日開放 高速道路で遊び尽くそう!--。2015年度中の開通に向けて順調に工事が進む三陸沿岸道路の吉浜道路を、丸1日遊園地として地域住民らに開放するという画期的なイベントが25日に開かれた。家族連れや子どもたちなど約500人が参集し、工事中のトンネルや高架橋での企画の数々を満喫した。  東北地方整備局南三陸国道事務所(佐藤和徳所長)の主催、岩手県大船渡市と清水建設などの施工会社でつくる吉浜道路工事連絡協議会が共催した。佐藤所長の発案で、見学会の拡大版… Read More
  • 【復興現場最前線】あらゆる先端技術で“急速施工” 三陸沿岸道路で最長の新鍬台トンネル工事 吉浜インターチェンジ(IC)から釜石ジャンクション(JCT)間の14㎞を結ぶ吉浜釜石道路の区間は、交通の難所で構造物が多いこともあり、大規模工事が集中している。三陸沿岸道路で最長のトンネルとなる新鍬台トンネル工事もその1つだ。施工を担当しているのは前田建設工業(畑宏幸所長)。写真は切羽で進む支保工の建て込み作業。  同トンネルは、岩手県大船渡市三陸町吉浜字扇洞を起点に釜石市唐丹町字上荒川に至る長大山岳トンネル。掘削延長は本坑3330m、避… Read More

0 コメント :

コメントを投稿