黒潮町役場(photo:Bakkai) |
町の対応は、「細分化」「推進体制」「コミュニケーション・ボリューム」の3つが大きな特徴だ。津波のあまりの高さに手の打ちようがないというのが実感だが、「課題が大きすぎるのであれば、手が打てるくらいまで課題を細分化した」。町内の地区を細かく分けることや、課題の構造を分解して対処しやすくした。
◆ハードから着手
町の南海地震対策係は係長と係員の2人しかいなかった。今後発生する膨大な実務をこなすため、2012年度に職員約200人全員で取り組む体制に改め、職員が町内61地区をそれぞれ担当して、防災に携わることにした。職員は担当地区のハードの課題を整理して、防災インフラの整備計画に反映した。
なぜハードの施設から着手したのか。「ハードは取っかかりが容易だが、ソフトは高度なコミュニケーション能力が必要になるからだ」と説明する。浸水地域の個別避難カルテを作成するため、ワークショップ(WS=対話集会)を開いたが、10-15軒の班単位に絞ることで欠席しにくくなるという効果があった。
12年4月からことし1月までの約2年間で、620回のWSや避難訓練などを実施、町の人口の2倍に相当する延べ2万4757人が参加した。「これはかなりのボリュームにみえるが、視点を変えると1人が1年間に1回参加しただけで、(数字の)インパクトが薄れる」
◆危機感を克服
行政が開催するのは、効果を考えるとこれが限度のため、コミュニケーション・ボリュームが不足しているのであれば、民間主導など実施主体の多様化が必要という。これまでの取り組みでもう1つ分かったことは、「ソフトを突き詰めれば突き詰めるほど、ハードの重要性を実感した」ということだ。
南海トラフの巨大地震は、30年以内に70%以上の確率で起きることが予測されている。「ハードは30年後に計算された効果が出る。ソフトの効果を30年後に出そうとすると、それ相当のプログラムと覚悟がいる。いまのコミュニケーション・ボリュームでは足りず、やるからにはプログラムの質も改善して、ソフトでやるという腹をくくらないといけない。なんでもソフトで補完するという論調には危機感を覚える」
一方、被害想定では町民の5人に1人が亡くなるという数字も示された。町民にあきらめの感情が生まれ、避難放棄の考えすら広がったが、コミュニケーションを活発にすることでそれも克服した。「危機感を持っているのは、(町民が)町をあきらめてしまうことだ。居住地として適切でないという判断、震災前過疎は潜在的にかなりある。これとどう対峙(たいじ)していくか、わたしたちに課せられた大きな使命である」
この3年間、抱いていた違和感として、「自分たちは想定される物理的事象、砕いていうと数字と向き合ってきたのではないか」と述べる。災害の本質と向き合うことこそが必要で、それは命と向き合うことと強調する。「災害だけでなくさまざまなリスクの中で、命のはかなさ、尊さを理解して、日々を一生懸命に生きる。この積み重ねによってより良い人生を実現していくことだ」と。
10年後に振り返ったとき、34mの津波想定が示されたおかげで、黒潮町が助け合いや思いやりのあるまちになったと言えるようにしたいと将来像を描く。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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