無事に貫通を向かえ、喜びにわいた現場 |
「よくここまで来た」。2月19日の貫通式典を前に控え、清水建設JVの河田孝志建設所長は本音を漏らした。2009年6月の着工からしばらくは順調な滑り出しを見せたものの、その後いくつかのトラブルに見舞われたからだ。
清水建設・西松建設・UEMB・IJM・JVがマレーシアで施工する円借款事業「パハン・セランゴール導水トンネル」の建設現場では、水不足を解消するための導水トンネルを建設している。3つのTBM工区と4つのNATM工区を組み合わせた東南アジア最長、44.6㎞のトンネルとなる。
地盤の大半は非常に硬い花崗岩だが、想定外だったのは温度の高さだ。一部区間の岩盤温度は55度を超え、坑内の温度は42度、湿度も90%に達し、サウナ風呂のような状態になる。日本でもスポット的に一部地盤が高温になるケースはあるが、それが数㌔にもわたって続くのは非常に珍しい。はっきりとした原因は判明しておらず、関心を寄せる地質学者もいるという。現場では熱中症対策として、大規模な冷却システムを複数投入して作業員の安全を確保している。
このほか、1分当たり最大24tを超える突発多量湧水、TBMやベルトコンベヤーの故障といったトラブルにも遭遇した。TBM工区の最大月進は657m、平均でも350mを記録。TBMのポテンシャルを極限まで引き出す駆け引きの中、2機の心臓部であるメーンベアリングが破損した。
一方、ズリを搬出する長距離ベルトコンベヤーはベルトが破断するトラブルに見舞われた。しかし、「常に先を読み、リスクをヘッジしてきた」(河田所長)対策により、いずれも無事に克服することができた。
貫通の直前。粉じんが舞い始める |
貫通の瞬間、坑内では轟音、粉じんとともにTBMが顔を出した。貫通式典にはマレーシア政府関係者らが参加し、その瞬間をライブ映像で見守った。作業坑を含めて長さ46.2㎞のトンネル掘削をわずか4年9カ月で終えたことになる。今後は覆工や仕上げを進め、2014年内の完成を目指す。
顔を出したTBM |
式典会場ではなく現場にいて粉じんまみれになった河田所長は、「充実感でいっぱいだ。スタッフと作業員に感謝したい。この現場で得られたものは非常に大きく、次の世代につなげていきたい」と話した。延べ67㌔のトンネル施工経験を持つベテラン技術者、その目線は常に先に向けられている。
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