2014/03/30

【けんちくのチカラ】作編曲家服部克久さんと都城市総合文化ホール

「よく言うのですが、劇場やホールというのは、音楽家や俳優など演じる人にとって重要なツールであるということ。すばらしい音が届けられるかどうかは、舞台(の空間)に左右されることも大きいからです」。作編曲家で、宮崎県の都城市総合文化ホール(愛称・MJ)の終身名誉館長を務める服部克久さんは劇場などの役割をそう指摘する。もう一つの役割は、そこに住む人たちの文化を育む場であるということだ。「とりわけ地方都市では、文化拠点として発信することが大切になります。MJは、プロの公演だけでなく、自分が舞台に立つことも含めて、企画して参加するマイホールになる施設やシステムを提案させていただきました」 (津川学)
◇「発信」する文化の拠点に
 服部さんは、若いころから好奇心が旺盛で、作編曲の本業が多様な方向に広がっていった。
 「編曲は、その曲をどういうふうに演出するかということなのですが、それがエクステンド(拡張)していきまして。例えば有名な演歌歌手の舞台で、ジャンルの違う音楽を組み合わせるとどういうふうに歌唱法が変わっていくのかとか、ほとんど演歌を歌わない新たな試みで楽しんでもらうとか、そんなプロデュースもやってきました」
MJこけら落としでの服部さん
活動は、ほかにもピアニスト、指揮者、司会者として舞台・テレビで活躍したり、大阪花博の音楽プロデューサーなど多様なイベントプロデューサーも務めている。
 そんな自身のキャリアがMJにも生かされた。宮崎県の観光振興を担う宮崎交通と縁のあった作曲家の父・服部良一さんのつながりもあって、建物の整地が始まったころにプロデューサー兼館長に就任し、いくつかの提案をした。
 「最初にお話を伺った時に、このホールを『文化の拠点』にしたいということでした。拠点ということは、何かを発信しなければなりません。そのことを含めて演出を考えるのがぼくの役割だと理解しました」
大ホール。本格的な音楽ホールで、オペラは演劇にも対応できる
◇劇場は出演者の「武器」になる

 まず建物の計画。
 「設計者の方などと話す中で複合的に利用できる施設にしてはどうかと申し上げました。博覧会のプロデュース経験などから考えたのですが、地方都市におけるホールは、イベントを見るためだけではなくて、市民が複合的に楽しめる施設にするべきだということです。文化の拠点ということでもありましたので、学生や市民が自由に使えるスタジオとコンサートの帰りに美味しいものを食べられるレストランをつくりましょうと提案しました。その結果、発表もできるスタジオとして『創作練習棟』がつくられ、レストランは目の前に公園が広がるいいロケーションに設置されました」
 劇場やホールの役割としてこんな持論がある。
 「よく言うのですが、劇場というのは、音楽家や俳優の実力をアップさせたり、補助する『武器』と言いますか『ツール』になります。評価をされる場ですから、とても重要です。それと地方都市のホールは文化を育む場所でもあります。MJのように市民ミュージカルを創作するなど、プロの演じる本物を見る目を養うことと同時に、アーティストが『生まれる』きっかけもつくってくれます。MJは、市民の思いを込めて企画を提案、参加して実現する『檜舞台』だと思っています」
外観
大中2つのホールは、その「ツール」としては、「生木を使って温かみがあり、地元名産の『和弓』のデザインも取り入れ、一部にいすの背面からの空調を採用するなど最新技術も導入しています。音響的には、さまざまな実験を重ねていて、自慢ができる空間になったと思います。ここで公演した多くのタレントさんが『いい音がします』と言ってくださいます。それを聞いて『ああ、よかったな』と改めて思います」

◇「マイホール」を自分たちでサポート

 運営面でも提案した。
 「マイホールができたのだから、市民によるボランティアのようなホールサポートの組織やシステムもつくりましょうと申し上げました。ボランティアのスタッフはタレントさんと交流できるような特典を用意することでうまく展開できます」
 小さいころは、ピアノを習い始める小学校入学前まで、ベーゴマ、メンコ、けん玉などでよく遊んだという。
幼少時の服部さん。自宅の庭で凧揚げ
「正月というと必ず凧(たこ)揚げで遊びました。母方の祖父が江戸っ子で、武者絵の凧をたくさん持ってまして。凧揚げはうまかったですね。今でも揚げるのは自信がありますよ(笑)」

◇幻のオペラ…ヨハニス・デ・レーケ題材に

 十数年前、旧建設省(現国土交通省)の砂防関係の人と仕事をする機会があり、日本に砂防・治山技術を伝えたオランダ人技師、ヨハニス・デ・レーケと日本人女性の恋愛などを題材にしたオペラをつくる計画があったのだという。
 「砂防会館でのシンポジウムでのコンサートも10年近くやらせていただきました。オペラをつくるために砂防ダムもあちこち見学しました。デレーケがかかわった有名な木曽三川工事と恋愛を結び付けたオペラをつくろうと、お金をあまりかけずにシンセサイザーを活用するなど、具体的になっていたのですが実現しませんでした。今思うと、がんばってつくればよかったかなと思います」


 (はっとり・かつひさ)フランス・パリ国立高等音楽院修了。日本を代表する作編曲家として、映画『連合艦隊』、アニメ『トム・ソーヤの冒険』、フジテレビ『ミュージックフェア』、NHK連続ドラマ『わかば』などの音楽監督をはじめ幅広い分野で活躍。音楽家という枠を超え、イベント・プロデューサーやピアニスト、指揮者、司会者としてテレビに出演するなど、才気あふれる活躍でも注目を浴びている。
 現在、日本作編曲家協会会長、東京音楽大学客員教授として日本の音楽シーンの発展に尽力している。ICT(情報通信技術)などによってだれでも音楽をつくることができる時代は、一面では良いところもあるが、「進歩がなくなり、高みをめざす人が減るのではないか」と音楽の変質に懸念も示す。
 オリジナル曲を集めた『音楽畑』シリーズは20作を数える。2009年に音楽家生活50周年を迎え、アルバムを2枚リリース。ことしは、5年ぶりとなるニュー・アルバムを発売の予定。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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