2014/03/30

【コンクリートキーパー】構造物を低コスト長寿命化する 補修含浸材

老朽化に伴い補修した旭橋
多くの社会インフラを抱える国や地方自治体にとって、限られた予算と人員で今後の老朽化対策を進めるためには、予防保全型修繕への政策転換と、個々の現場を効率化する新技術の導入が求められる。ただ、維持補修技術についての情報はまだ少なく、新技術の採用に及び腰となる発注者も少なくない。こうした中で一部の先駆的な自治体が、コンクリート補修工事において、ケイ酸リチウム系とシラン系をミックスしたコンクリート含浸材の採用に踏み切っている。
 栃木県さくら市の内川にかかる県道塩谷喜連川線・旭橋。経年に伴う老朽化が顕著なことから、同県矢板土木事務所がことし補修工事を実施した。設計を担当したニューフロンティア(宇都宮市、鈴木浩之社長)は、劣化の激しい部分は従来の断面修復工法で補修を行い、橋の大半を表面含浸工法で補修することを提案。県が検討を重ねた結果、ケイ酸塩系含浸材の採用を決めた。
 表面含浸工法は含浸材を塗布するだけで施工性が高くコストダウンになる。エポキシ樹脂などによる表面被覆工法のように何重もの下地処理をする必要もなく、施工前と素材感が変わらないため施工後もコンクリートの目視が可能になる。含浸材の素材は、コンクリート表面のシール性を高めるシラン系が主流だが、これだけでは内部の劣化が進展してしまう可能性がある。コンクリート内部に浸透して組織の緻密化を図り劣化を止めるケイ酸塩系を併用することで本質的な長寿命化が可能になる。
塗布するだけで施工性が高い
旭橋の現場で最終的に採用されたのは、シー・エル・エー(本社・東京都中野区、高森修社長)が開発した「コンクリートキーパー」。従来は困難とされていたシラン系とケイ酸リチウム系の混合に成功した含浸材で、「いわばリンスインシャンプーのように2工程を1工程にすることで、工期が短縮、人工が減少し、工事費全体の5%程度を削減できる」(高森社長)。ケイ酸塩系の素材は従来ナトリウムやカリウムが使われてきたが、より細部に浸透するリチウムを使っている。
 採用の背景として、同県は現在956橋(橋長15m以上)を管理しており、20年後には46%が建設後50年を超える。より多くの橋梁をより早く長寿命化し、事故リスクを減らして住民の安全を確保することが、最重要テーマになっている。
 県全体や全国でみれば、5%の削減は大きい。工期短縮や作業員の回転が上がることも併せ、より早く次の橋梁の補修に着手できるからだ。こうしたメリットは単なる性能比較などでは見えてこない。個々の現場でハイスペックなものを選択し続けるだけでは、必ずしも住民全体の安全確保につながらない。ストック時代の新技術選びには、こうした新たな観点が求められる。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

Related Posts:

  • 【窓学】5月31日から『WINDOWSCAPE』展で研究成果を紹介 YKKAP ミラノサローネに出展したインスタレーション YKKAPは5月31日から6月15日まで、東京都港区の東京ミッドタウン・デザインハブで、塚本由晴東工大大学院准教授(アトリエ・ワン共同主宰)と7年にわたって取り組んできた窓学の研究成果を紹介する「窓学『WINDOWSCAPE』展」を開く。  同展は、4月にイタリアのミラノで開かれたデザインの祭典「ミラノサローネ」で両者が発表したWINDOWSCAPEの帰国展も兼ねている。窓のふるまい学などをテー… Read More
  • 【建築】働きを実感できる空間「明治安田生命新東陽町ビル」 竹中工務店の菅氏に聞く【記者コメ付き】 スロープでオフィス間の全フロアを徒歩で移動できる 1949年から始まった日本建築学会賞作品部門の歴史の中で、ゼネコン設計部単体の受賞としては51年に「日活国際会館」で小林利助氏(竹中工務店)、63年に「リッカー会館」で鹿島昭一氏・高瀬隼彦氏(鹿島)が受賞したのに続く3例目となった。半世紀ぶりの快挙を達成した竹中工務店の菅順二設計部長が今回の作品で目指したのは、均質化したオフィス空間で失われた「働く人々の心のよりどころとなる建築」だ。現代、… Read More
  • 【BIM】グラフィソフトのクラウドサービスは日本から始まる (左から)アコシュ・フェメター氏、ビクター・バルコニ氏、ベンツェ・コバーチ氏 グラフィソフトは、あらゆる規模のチームがリアルタイムに共同作業できるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のコラボレーションプラットフォーム『BIMcloud』を、日本を皮切りに世界各国で販売に乗り出す。「数多くのBIMプロジェクトを抱える大手企業に向けて、コラボレーション環境を提供できるインパクトは大きい」と、同社CEOのビクター・バルコニ氏は… Read More
  • 【サンドバイパス】国内初! 河口の堆積砂を浸食海岸に移す一石二鳥の技術 架設桟橋から斜杭を打設 毎年150ha以上の国土が海岸浸食によって失われている。静岡県・太田川の河口にある福田漁港は、土砂の堆積に悩みを抱えている漁港の1つ。河口側の航路に土砂が堆積するため定期的に浚渫しなければならない一方、漁港を挟んだ潮流の下手側、浅羽海岸は浸食される。こうした課題を解決するために投入されたのが日本初の「サンドバイパスシステム」だ。堆積する土砂を吸い上げて、浸食する海岸に砂を送る。静岡県が発注し、五洋建設などが施工を進… Read More
  • 【大和ハウス】「ダイワユビキタス学術研究館」を東大に寄贈 設計は隈研吾 大和ハウス工業は14日、東京大学に寄贈したダイワユビキタス学術研究館=写真=の内覧会を開いた。今後、ユビキタスコンピューティング研究の拠点として活用する。施工は大和ハウス工業、設計は東大の隈研吾教授、総合監修は同じく大学院情報学環の坂村健教授が務めた。  大和ハウス工業の樋口武男代表取締役会長は「世界に羽ばたく技術をつくるために使われてほしい」とした上で、施設について「自然との調和がうまくいった建築であり、ここで新しい発想の若者が育つことを… Read More

0 コメント :

コメントを投稿