2014/03/09

【窓学】奥深き窓…メーカーと建築家の共同研究、ミラノサローネへ

ミラノ大の中庭に設ける空間体験展示「カレイド・ウィンドウ」(模型)
「窓には、1つの建築では完結できない奥深さがある」。建築家の塚本由晴氏(アトリエ・ワン、東京都新宿区)は、窓メーカーであるYKKAPとの共同研究を通し、窓のもつ力強さを再認識してきた。4月にイタリアのミラノで開かれるデザインの祭典『ミラノサローネ』には、この間の研究成果を出展することも決まった。その根底には、建築家とメーカーの取り組む「窓学」という共通概念がしっかりと息づいている。
 YKKAPが窓学の研究に乗り出したのは2007年4月。窓を商品としてでなく、文化や歴史の側面から研究すべきと、当時社長だった吉田忠裕会長の強い思いが出発点となった。総合監修に建築史家の五十嵐太郎氏を迎え入れ、塚本氏も研究発足時からのコアメンバーの1人として活動してきた。窓学研究のスタートに合わせ、アトリエ・ワンとYKKAPの共同研究も動き出した。
 「ミラノサローネへの出展は、7年に及ぶ共同研究の集大成であり、絆でもある」と語るのはYKKAP窓研究所所長の山本絹子さん。13年4月に発足した窓研究所は窓に関する調査研究や情報発信、さらには人材育成までを一手に担う。「出展の準備を始めたのは13年秋ごろ。窓学を世界に発信しようと、一丸となって取り組んできた」。いくつかの案を検討する中で、トンネル状の空間に窓からの風景が映り込む提案に行き着いた。
 4月8日から24日までの17日間、建築家など世界各国のデザイナーが参加するミラノサローネは、ミラノ市内を舞台に展示やイベントが行われる。前回延べ32万人が来場した世界最大規模のデザイン展だ。両者にはミラノ大学中庭の約260㎡が会場として提供された。回廊のアーチとアーチをつなぐトンネル状のインスタレーション(空間)を設け、その中を通れば窓からの景色や光の変化を体験できる。展示全体を『WINDOWSCAPE』と名付けた。
 山本さんは「私たちには窓100%の空間をつくりたいという思いがあり、窓が主役のインスタレーションをさまざまな角度から検証してきた。展示する体験空間の『カレイド・ウインドウ』ではトンネル内に点在する窓を通し、内外の風景や光を乱反射させる。窓の役割は内と外をつなぐ『閾(いき)』であり、まるで万華鏡の中を体験できる構成になる」と説明する。
 塚本氏は7年に及ぶ共同研究を通じ、窓の奥深さを強く認識するようになった。「窓というのは1つの評価軸に収まらない。その形態は気候風土、さらには文化習慣にも結びつく。建築の窓は反復し、街並みにとっても重要な要素になっている。大きくは生産、制度、系譜という要素の中で、窓自体の性格も形態も変わってくる」
 窓学を追求する中で、お互いが思ったことを率直に言い合える関係性も生まれた。「工業化の尺度で窓をとらえることは間違いではないが、冷静に一歩引いて窓という存在を見れば、もっと違った部分の要素が見えてくるはず。風景や街並みは複合的な窓の評価軸であり、そこまで考えれば、メーカーにとっての窓のつくり方は変わってくると思う」(塚本氏)。
 建築の構成要素である窓の役割は、実に広い。構造や環境配慮といった技術的な側面だけではない。特に建築デザインとは密接に関係してくる。塚本氏は「窓からの風景が移り変わるように、窓は建築と都市をつなぐ役割を担っている。言い換えれば、窓には建築を変える可能性を秘めている」と確信している。
 アトリエ・ワンとYKKAPの窓学研究は次のステージに上がろうとしている。5月には、帰国展として東京都内でWINDOWSCAPE展が開かれる予定だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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