2014/03/29

【現場の逸品】電子小黒板!! 実現すれば1人で撮影、クラウド管理も

土木工事現場で撮影される小黒板の写真枚数は、平均1万枚規模にも達する。このうち発注者に提出されるのは2000枚ほど。作業員は現場事務所に戻ってからも写真整理に追われている。「もっと省力化できないか」との声は以前から絶えない。デジタル写真の一般化に呼応し、小黒板を電子化する検証プロジェクトが具体的に動き出している。
 民間建築工事ではゼネコンが独自に施工検査の電子化に取り組む動きがあるものの、公共工事では明確な基準の設定がなく、電子小黒板の導入が難しかった。日本建設情報総合センター(JACIC)が工事写真に付与するデータ仕様の基準を定めたのは2013年9月。影山輝彰主任研究員は「電子化への道筋が整った」と強調する。
 そもそも小黒板には工事件名、実測寸法、略図をチョークで記載し、被写体と一緒に写し込む。撮影ごとに記載内容を書き換え、撮影場所によっては2人1組で対応せざるを得ない場面も多い。電子化の実現には、現場撮影の省力化や写真整理の効率化に加え、維持管理段階でのデータ活用という期待がある。
 「当初は不安もあったが、現場の反応は上々。特に豆図の写し込み機能は評判が良かった」と、大本組東京本社土木部土木課の浅賀泰夫課長は説明する。
 国土交通省が工事中の直轄工事から4件を試行対象に選定したのはことし1月。東北地方整備局仙台河川国道事務所発注の「仙台湾南部海岸二の倉工区南部第5復旧工事」を請け負う同社では、2日間にわたって試行的に電子小黒板を導入した。関東整備局では清水建設、中部整備局では大林組、九州整備局では渡辺組の現場が検証を行った。
豆図も撮影したものを取り込む手軽さ

 具体的には、小黒板への記載事項を電子情報化し、撮影と同時に被写体画像に組み込まれる仕組み。作業員は専用アプリケーションを搭載したデジタルカメラやスマートフォンに実測値などを入力して撮影する。小黒板に描いていた豆図も撮影したものを取り込むだけの手軽さ。作業員1人で撮影でき、悩まされていた写真整理の時間も大幅に削減できる。
 10年前、検査時に提出されたデジタル工事写真の一部に不適切な事例が見られたことから、写真の原本を電子媒体で提出する際には明るさ調整や合成などは原則認められていない。今回の試行ではデジタル写真の信憑性を高めるため、撮影時の情報を暗号化し、修正の有無を認識できるプログラムが採用された。
 試行にはリコージャパンが協力し、建設現場向けのデジタルカメラ『G700SE』とクラウドサービス『Snap Chamber』が活用された。撮影した写真はクラウドにアップロードされ、例えハードデスクが壊れたとしても写真データが消滅してしまうこともない。
 デジタルカメラでは撮影時の付属情報が「Exif」という画像ファイル形式として保存される。ここに工種や場所などのデータを付与させれば、使用目的に応じて写真の仕分けも自在に行える。入力項目がそのまま電子納品にもなり、撮影後の作業手間は大幅に軽減される。試行現場では、電子小黒板の有効性が一定程度確認された。
デジタルカメラでは実測値を入力して撮影するだけ
現場からは、端末やアプリケーションについても数多くのアイデアが寄せられた。端末の長時間使用や耐久性、持ち運びやすさに加え、大き目の液晶画面サイズを求める意見も挙がった。大本組の浅賀氏は「細かな部分ではシステムの改善点は多いが、近い将来には現在のデジカメによる写真管理に代わるものになる」と期待をのぞかせる。
 国交省は試行の結果を踏まえ、本格導入に向けた検討に乗り出す。実用化すれば作業の効率に加え、写真の信憑性も向上する。施工者はクラウド経由で、写真整理作業を本社などの関連部署に対応してもらうことも可能だ。JACICの影山氏は「付加データを効果的に使えば、維持管理システムにも利活用でき、国交省が取り組むCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の有効なツールになり得る」と考えている。
 写真整理ソフトのベンダー各社は、明確になった工事写真のデータ仕様を踏まえ、電子小黒板用ソフトの開発に乗り出した。施工者自身が独自のシステムを開発することもでき、将来的には現場の代名詞である小黒板の姿は大きく変わりそうだ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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