2014/11/15

【建築】京都・東本願寺 世界最大級の木造建築修復作業、CMで支える

浄土真宗大谷派の総本山・東本願寺(京都市下京区)で、世界最大級の木造建築・御影堂(ごえいどう)を始めとする建造物の修復工事が、2004年から進められている。約200億円もの事業費が投じられた巨大プロジェクトに計画段階から参画しているのが日建設計だ。改修工事の基本・実施設計と工事監理に加え「コストオン分離発注方式」により事業全体を統括するCMR(コンストラクション・マネジャー)としての役割も果たしてきた。写真は現在の御影堂。

 プロジェクトのスタート時から携わっている降井繁蔵氏(日建設計コンストラクション・マネジメント特別顧問)によると、文化財修理は行政主導で行われるのが一般的で、設計監理は特定の団体が受託することが多い。日建設計にとって「これだけ大規模な伝統建築の経験はなく、大きなチャレンジだった」という。03年、社内に「東本願寺御修復設計監理室」を設置。設計監理部門を中心に構造設計、設備設計、CM(コンストラクション・マネジメント)などグループ一体でバックアップする体制を整えた。
 修復工事の工種は多岐にわたり▽素屋根▽屋根瓦▽木工▽土居葺▽構造補強▽耐震補強▽かざり金物▽左官▽建具▽床塗装▽表具▽内装畳▽金属▽美掃▽防蟻防腐▽厨子修復▽設備(電気・消火)▽仮設解体--など約20にのぼる。すべて分離発注された。なかでも最大の関門が素屋根工事と屋根瓦工事。この2つで「総事業費の半分近くを占める」ため「いかに効率良く進めるかがプロジェクトの成否を握っていた」と説明する。

09年7月、素屋根を阿弥陀堂にスライドさせた
発注に当たっては、経験を有する施工者10社に提案を求め、第三者機関による審査を経るなど透明性の高い方法で施工者を選定した。素屋根工事に採用されたスライド工法は、御影堂改修に利用した素屋根を移動し阿弥陀堂改修に再活用するもので、コスト削減に大きく貢献した。09年7月には素屋根を御影堂から阿弥陀堂にスライドさせるセレモニーが行われた。鉄骨造の素屋根で高さ51m、重さは1500t。2台の巨大なジャッキを用い約2時間で移動させた。「(素屋根工事の)めどがついた時は本当にほっとした」と当時を振り返る。

◆説明責任の徹底を図る

 発注者支援を担当している足立修一郎氏(日建設計コンストラクション・マネジメントマネジメント部門アシスタントマネジャー)は「綿密な打ち合わせはもちろん、見学に訪れる門徒の方も含め、幅広い気遣いが求められた」と説明する。特に東本願寺の最高議決機関(宗会)、文化財保護の専門家、耐震調査委員会など、すべての関係者に対する説明責任(アカウンタビリティ)の徹底が図られた。設計や施工計画の策定では専門家グループと意見交換し、了解を得た上で内容を詰めていく。修理方法、工事費、施工体制などをすべて整理し資料を作成。その都度、承認を得ながら進め、ようやく工事発注に至る。
 文化財の修復は思いがけないことの連続でもある。「すべて説明が終わった後で発生する作業がどうしても出てくる。その場合、発注者側の理解を得るため苦労したこともあった」(足立氏)。だがその労を厭わず説明責任を果たし続けたことが発注者側との強固な信頼関係の構築につながった。
 耐震性を向上させるため屋根瓦の葺土はすべて取り除き、重量を1割以上軽量化することに成功。また撤去した土は耐震改修用の「荒壁パネル」に、古い瓦は駐車場の舗装の路盤材や調湿材として再利用するなど、リサイクルも徹底。伝統の技だけでは実現しえなかった現代的な発想も盛り込まれた。降井氏も「われわれが常に新しい技術を積み重ねてきた組織事務所であったことも、時代に即した手法の提示につながった。信頼があったからここまで無事に進めることができた」と話す。

御修復プロジェクトのあゆみ
修復工事は順調に進み、この秋には阿弥陀堂の屋根瓦葺き替えが完了。15年末には全工事が完了する予定だ。

◆御修復事業の概要

 1895(明治28)年に完成した御影堂は宗祖・親鸞聖人の御真影を安置する最も重要な建物。重層入母屋造りの建物で高さは38m、床面積は延べ約2890㎡と木造建築としては世界最大級の面積を誇る。隣接する阿弥陀堂には本尊の阿弥陀如来像のほか、聖徳太子を始め8人の聖人の御影がまつられている。高さは29mで床面積は約1600㎡。御影堂と同じ1895年に建立された。このほか御影堂の東側に位置する御影堂門(1911年建立)を含めた計3つの建物が修復の対象で、いずれも登録有形文化財に指定されている。
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