2014/11/13

【建築】坂茂氏が初の国内公立美術館を設計 「大分県立OPAM」


「大分県立美術館OPAM(オーパム)」が10月末に完成、2015年4月24日に開館する。設計は建築家の坂茂氏。国内で公立美術館の設計を初めて手掛けた。「美術愛好家のためだけの施設では運営していけない」という危機意識を持って考え出したという、美術館特有の閉鎖的な室内と屋外環境との境界を取り払うためのさまざまな仕掛けは、美術館の新たなあり方を提示するものとなっている。

 同施設では、「五感で楽しむことができる」「自分の家のリビングと思える」「県民とともに成長する」という3つのコンセプトを設定。1階のアトリウム南面には水平の「折り戸」を長さ80m、14スパン設置した。高さ6mまで大きく開放でき、街に開かれた懐の深い空間を生み出す。坂氏は「折り戸は日差しをよけるひさしの効果もあり、その下は人が集う空間になる」と語る。また道行く人に「展覧会が開催されていることを知ってもらう機会を増やす」という効果も期待している。

折り戸は空調負荷の低減にも寄与
1階展示室は固定した壁を設けず、可動式の間仕切りでアトリウムと一体的な展示から、複数の閉じた展示空間の設定まで、フレキシブルで多様な展示を可能とする。さらにカフェやライブラリー、ミュージアムショップなどを設置し、誰もが気軽に立ち寄れ、くつろげる空間を提供する。

美術館の新たなあり方を提示した坂氏(左)と新見館長
いかに美術館に興味を持ってもらい、足を運んでもらうか--。こうしたコンセプトを設定した背景について、坂氏は「日本各地の美術館を訪ねて、現地の市民に話を聞くと、ほとんどの場合、“なんでこんなに税金をかけて大きな建物を造るんだ”という声が多かった」と指摘した上で、「税金を使う以上、特定の人しか楽しめない施設であってはいけない。常日ごろ美術館には行かないような人たちにも自由に使ってもらえるようにするのが、今後の美術館の新しいあり方になる」と提起する。
 そのためにも「ブラックボックスとなって内部に入るまで何が行われているか分からないような施設ではなく、いろいろな用途に使うこともでき、広く市民に愛される場所になってほしい」と期待を込める。新見隆館長も「大分でしか造れない、唯一無二の世界観のある美術館になる」と意気込む。
 大分県立美術館の規模は、S・RC造地下1階地上4階建て塔屋1層延べ1万6769㎡。シンプルな箱形の建物をガラスで覆い、竹工芸をイメージした3階の外壁には地場産材のスギを活用するなど、県民に愛されるシンボルとなるよう印象的なデザインに仕上げた。気候条件に応じて折り戸を開閉することで空調負荷を低減するなど、自然エネルギーを最大限に活用。免震構造の採用や浸水・災害を想定した電源機能の維持など、高い防災性能も備えた美術館となる。建築施工は鹿島・梅林建設JVで担当した。
 所在地はJR大分駅から徒歩15分の大分市寿町2-1。
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