2014/11/08

【現場最前線】基礎の90%をプレキャスト化! 省人化徹底で挑む吹田市立スタジアム

大阪府吹田市の千里万博公園内で、4万人を収容できる(仮称)吹田市立スタジアムの建設が進められている。この現場では、竹中工務店の設計施工案件であることを生かし、両部門が連携して着工の1年以上前から現場作業を極限まで減らすための検討・実験などを繰り返し、基礎のプレキャスト化を実現。以降の工程でも徹底した省人化を図っている。
 このプロジェクトは、国際サッカー連盟や日本サッカー協会の新基準を満たすサッカー専用スタジアムを建設するもの。サッカー界とガンバ大阪、関西財界で構成するスタジアム建設募金団体が事業主となり、法人と個人の寄付で建設費を賄う「みんなの募金でつくるスタジアム」としても注目を集めている。

W杯開催の国際基準も満たす
規模はRC・S造6階建て延べ6万6355㎡。500kWもの太陽光発電や雨水利用などの環境配慮技術だけでなく、スタジアムピッチ照明はLED(発光ダイオード)を採用して大幅にエネルギー使用量を削減するなど、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)Sランクの「エコ・コンパクトスタジアム」を目指している。
 事業費は約140億円で、工期は約22カ月。在来工法ではこれらの条件をクリアすることが難しく、さらに建設業界では職人不足が深刻化してきている。そこで同社は中野達男総括作業所長が発案した基礎のプレキャスト化をはじめとする省力化に挑むことにした。

フーチングPcaおよびPC梁の設置状況
ことし5月に終えた基礎工事では、同社保有技術の「竹中式杭頭半剛接工法」をベースとし、工場製作したフーチングを杭頭にかぶせて接合材となるコンクリートを流し込んで一体化させる方法を採用。このコンクリートの配合も実験により、「36ニュートン、スランプ21cmでもポンプで圧送すれば密実に充填できる」(松尾享作業所長)ことを確認して使用した。
 そして、工場製作するフーチングや基礎梁は接続部分の鉄筋にスリーブ継手を始め、ジョイントに必要な材料を工場で事前にセットし、現場で簡単に接合できるように工夫。さらには平板ブロックでフーチングの荷重受けを兼ね、位置決め用墨だし板としても採用することで、床付け面の捨てコンクリート打設をなくした。
 こうした省力化を積み上げた結果、基礎全体の約90%をプレキャスト化することができ、これに伴って在来工法では1日当たり360人を要する作業員数を「50人ほどに抑えることができた」(松尾所長)という。

現在進めている地上躯体工事でも可能な限りのプレキャスト化とジョイント部の工夫などを徹底している。柱鉄筋は地組みするものの、その時に鉄筋がズレないようにテンプレートで固め、その鉄筋を所定の位置に立ててから、一体型に組みあがったシステム型枠ですっぽりと覆ってコンクリートを打設している。
 こうした工事を進めるとともに、現場内の「サイトPC工場」では、日々の作業から発生する細かい修正なども反映させながらさまざまなコンクリート部材を製作。4階のVIPフロアを挟み5階から立つ上部スタンドは3分割して製作したPC部材を地組みヤードで一体化し、総重量50-80tにもなる大型プレキャスト部材を揚重・取り付けすることで、工期短縮・省力化と高所での危険作業の排除を図っている。この揚重作業には日本に数台しかない超大型のドイツ製クレーン(リープヘルクローラー)を予定している。
 4万席すべてに屋根がかかるサッカー専用スタジアムとなり、観客席とフィールドが非常に近いことで、ダイナミックな臨場感を演出している。日本最大のVIPフロアをもち、約2000席のバルコニー席も併設する。「多様化した観戦スタイルにも対応できるサッカー専用スタジアムとして日本でのスタンダードを目指している。また、災害時は、吹田市の防災拠点及び避難所としての活用も予定している」(大平滋彦大阪本店設計部設計第5部長)。
 松尾所長は「既に寄付金の額は132億円を超えたと聞いており、今後も無事故・無災害を続け、皆さんのこうした思いをしっかりと形にしていきたい」と語る。
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