2012/10/14

現場最前線! 津軽ダムが高速施工「巡航RCD」で打設最盛期

東北地方整備局発注の津軽ダム本体工事が、白神山地近く山裾の岩木川上流でコンクリート打設の最盛期を迎えている。打設進捗率は51%を超え、堤高97・2mのうち37m高まで進んだ。計画のうち着工以来、無事故は200万時間間近となり、高速施工の新技術・巡航RCD工法にも9月下旬から着手した。海外も含めてダム工事は、これで8現場目という間・西松特定建設工事JVの中上政司所長は「当社(ハザマ)が50年前に施工した目屋ダムの下流60mに築造する再開発ダムなので、放流との調整など難しさがある。職員40人も含め270人の大所帯だから和の結束が大事」と口を引き締める。

「巡航RCD」工法
「目屋ダム施工時の関係からか、近隣住民や地元・西目屋村の方々が非常に好意的。近隣にこんなにめぐまれた現場はない」と、ダム歴の長い中上所長は目を細める。その目屋ダムを沈め、目屋ダムの3・5倍の1億4090万m3の総貯水量を確保するのが津軽ダムだ。その水はかんがい、水道、工業用水、そして発電の貴重な資源となり、さらに洪水調節、岩木川流水機能維持の目的も持つ。
 「昨年も今年も、弘前市や農地で渇水が深刻化し、目屋ダムも放流で水位が極端に下がった」ため住民が待ち望んでいるプロジェクトでもある。津軽ダムは、堤高97・2m、堤頂長342m、堤体積71・7万m3の規模だが、総貯水量が1億4090万m3と貯水効率に優れる。
 1期工事に着工したのは、2008年10月(11月17日に着工式)。堤体打設が始まったのは10年5月、同年10月28日に定礎式が行われ、以降、打設が本格化した。当初案では打設が11年開始だったが、総合評価方式で、JVは10年開始を提案し評価された。
◇「巡航RCD」工法

 「だがその後、3・11の東日本大震災が起き、工事一時中止となり、原石山法面崩壊も起き、工程は遅れた。今は、最終的に当初の打設完了時に追いつくようにピッチを上げている」と中上所長。
 その高速施工を担うのが「巡航RCD」工法。内部コンクリートを先行打設した後、外部コンクリートを追随して打設するもの。従来RCDに比べ、1回の打設区画が拡大し、内外の打設が分離施工できるから効率的だ。東北初、全国でも3例目の新技術は、現場を訪れた前日(9月28日)から着手し、現場には緊張感が漂っていたが、順調な滑り出しをみせた。天端がパイプ築造など複雑形状になる来年6月まで昼夜2交替で施工する。
 津軽ダム工事の難しさは、稼働中の目屋ダムからわずか60m下流に構築することであり、発電施設も含め多目的であり、さらに原石山が右岸直近にあることだ。すぐ上流の目屋ダム放流を円滑にするため、転流を4段階に分け、中央の締切壁を築造、左側を打設時に、右側に水を流し、右打設時は左に転流するもので、現在は3次転流の状況だ。
 取材当日、初代所長であった志賀正延ハザマ東北支店役員待遇副支店長も現場に来ており、「当初は作業位置が低かったので、目屋ダムの放流水が滝のように上から流れ込んできた」と振り返ってくれた。当時もダム再開発ゆえに施工計画の難しさがあったとも語る。
◇再開発ダムこその難しさ

 環境問題にも配慮、火山灰地で地滑りが多く下流ににごり水が流れるので、上流のきれいな水を下流に提供するためのパイプを組み込んだり、堤体内部の構造も複雑だ。それだけに施工の細部に神経を使う。雄大なスケールのダムだが、ディテールに「再開発ダム特有の難しさがある」と語る中上所長。右岸には、一般の人も現場全体を隅々まで見渡せる展望台が設置してある。「見える化」の試みだ。
 すぐ近くの原石山とコンクリート製造基地も「近いゆえ切り回しや輸送経路計画に制約がある」。原石山の一部崩壊には肝を冷やしたが、無人の夜中だったので負傷者はゼロだった。「近くに岩木山神社があり、お岩木さまへの願掛けが効いたかも」と笑わせる。安全面では「着工以来、もうすぐ200万時間になる。すべてに優先する」と気合いを入れる。
 第1期工事は来年3月19日の工期で請負金は約158億円。続いて2期工事が始まり、堤体打設完了は14年9月過ぎの目標。それまでは雪が気掛かりだ。積雪時は別途工事をするが、打設はできない。だから1年の打設は8カ月しかない、時間と自然との勝負になる。2016年度の竣工まで、そんな格闘が続く。地元では、その時が待ち遠しいのか、美山湖というダム湖水名も「再開発」して津軽白神湖と命名することも決めているという。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月10日10面


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