2012/10/07

「漆喰」 守り彩る現代の仕上げ材 商業施設、オフィスに広がり

姫路城の大天守保存修理事業
「伝統の仕上げ素材と思われがちだが、健康や環境への配慮が重要視される中で、まさに現代の仕上げ材と称しても過言ではない」と、漆喰への思いを熱く語るのは日本漆喰協会の行平信義会長(田川産業社長)。住宅に使われるケースがほとんどだが、近年は商業施設やオフィスでも漆喰仕上げにこだわる事例が登場している。現場では既調合漆喰が主流になってきたことから、左官工事の標準仕様「JASS15」では4月から改定作業もスタートした。

 漆喰は、消石灰(水酸化カルシウム)を主原料に、のりや繊維質を添加した壁材。日本では1300年前から建物を守り彩る素材として親しまれてきた。日本漆喰協会の試算によると、年間の国内施工面積はおよそ700万㎡に達する。これまで漆喰の供給量を知る手がかりはなかったが、会員28社を対象に販売量を把握、粉漆喰20㌔当たり16㎡(5坪)を施工できる計算で割り出した。
 湿度を調整し、結露からのカビやダニを防止できる効果があるほか、悪臭やホルムアルデヒドなどVOC(揮発性有機化合物)の吸着機能もある。内装材の主流であるビニルクロスよりも静電気を発生させないため汚れにくく、有害物質が含まれていないことから廃棄された場合でも環境にやさしい。ただ、普及率はビニルクロスの1%程度と低いのが実態だ。
 採用されているのは主に戸建て住宅や、伝統工法を重んじる酒造場や社寺建築などが中心だが、近年はオフィスや商業施設など非住宅に使われるケースも出てきた。すぐれた漆喰仕上げの建築に贈る協会の2012年度作品賞にも、入賞17作品で唯一、オフィス「トラスコ中山広島支店」(設計・安井建築設計事務所、施工・大成建設)が選ばれるなど、革新的な取り組み事例も見られるようになった。協会は「非住宅の増加が漆喰の普及に大きな影響を与える」(行平会長)と考えている。

◇姫路城の大天守保存修理でも活用


五重屋根 懸魚漆喰塗り 西面
文化財や伝統建築などの修復では、鹿島・神崎組・立建設JVが施工する姫路城の大天守保存修理事業が、漆喰仕上げの観点でも話題を集めている。現在は外壁の漆喰塗り(左官・イスルギ)が佳境に入っている。姫路市は「ちょうど瓦屋根の目地で漆喰塗りが行われている。外壁では計6回の重ね塗りを行い、13年3月から大天守5層部分の最終塗りに着手する」(城周辺整備室)と説明する。
 商材としての漆喰にも、変化の兆しが表れている。従来は左官職人が粉漆喰を現場で調合していたが、現在は既調合の漆喰が主流。こだわりの職人が減る一方で、安定した品質を求めるニーズが高まっていることが背景にある。漆喰塗料も出回り始めた。協会では各商品の性能評価を実施し、一定の基準に適合しているか否かを把握する必要があるとし、漆喰塗料の位置付けを早急に明確化する方針だ。
 健康面や環境配慮の観点から脚光が当たり始めた漆喰であるが、主流となっている既調合漆喰の扱いについて、現行のJASS15では明確な規定がないのが現状。日本建築学会では4月から4年間をめどにJASS15の改定作業に着手した。メーカー各社の調合状況を把握し、既調合品の仕様を定める見通しだ。
 東京理科大理工学部建築学科の古賀一八講師は「既調合漆喰をJASSに位置付けることができれば、設計仕様に盛り込みやすくなり、公共工事などでも扱われやすくなる。非住宅への採用が出始めただけに、今後の普及にとっても今回の改定が大きな意味をもつだろう」と強調する。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月3日10面

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