2012/10/13

現場最前線! 成田空港が施設整備で新戦略 LCC専用ターミナル

成田空港(写真・NAA)
成田国際空港(NRT)の8月1カ月の旅客数が329万4,083人と過去最大を記録した。その理由について空港会社(NAA)は、7月3日にジェットスター、8月1日にエアアジアジャパンとLCC(格安航空会社)が相次いで就航したことによって新しいマーケットを開拓したことが大きく寄与したと分析する。


◇徹底して無駄を省く

 2010年に国土交通省が示した成長戦略は、NRTにLCCターミナル整備の必要性を指摘した。また、今後LCCがさらに便数を増加させることが見込まれることからNAAは、LCC専用ターミナルの整備に向け、現在実施設計委託の選定手続きを進めている。
 他方、国内線の増強にも取り組んでいる。専用ターミナル完成に先駆けた暫定施設として第2ターミナル南側国内線施設を増築し、9月12日から供用を始めた。同北側国内線施設についても10月には完成する予定で、LCCの受け入れ体制は着々と進んでいる。
 NAAの川瀬仁夫経営計画部長は、LCC専用ターミナル整備について「便数の増加でターミナルビルが手狭になるなら、従来のターミナルビルをそのまま拡大すれば良いという考え方もある」と語る。しかし、それでも専用ターミナルにこだわったのは「これまでのフルサービスエアラインとLCCカテゴリーの航空会社では求める施設が異なる」からだ。
 LCCはコストを徹底的に削減することで低価格の航空料金を実現しただけに「専用ターミナルを設けて航空機の稼働率を上げるとともに、ターミナルビルなど施設についてもシンプルで無駄のないものにしたい」との要望があったという。
 そのため、暫定施設についても無駄を省いた施設を目指した。既に完成した第2ターミナル南側国内線施設では建設コストを抑えるため天井を張らない仕上げとしたほか、天窓を設けることで自然光を採光し、照明コストも削減した。LCC専用ターミナルの整備についても、LCCの低コスト運用のためのニーズを的確に捉えながら進めていく考えだ。

◇VS羽田

完成した第2旅客ターミナルビル南側国内線施設
川瀬部長は専用ターミナル整備によるLCCの受け入れについて「LCCは世間の関心も高い。運休などのトラブルには注目が集まってしまうが、それは安全な運航のため少しのリスクも犯さないという方針からのものであって、LCCにはこれまでにない新しい顧客を掘り起こしてほしい」と期待を込める。
 こういった整備を進める背景には、羽田空港の国際化がある。羽田空港は昼夜を問わず発着が可能な上、2014年をめどに昼間の発着枠を6万回に増枠しようとしている。
 対抗策としてNAAは、その特徴である充実した国際空港ネットワークを生かして、利便性をより高めていく構えだ。また全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)などの航空会社は乗り継ぎに力をいれていることから、ターミナルの使い勝手の良さを高めることで、航空会社にも魅力的な空港を目指している。
 LCC専用ターミナルは国内線・国際線のターミナルを備えた施設となる。現在JALが使用する第5貨物ビルの北半分を解体し、約2600㎡に新しくターミナルを設ける。規模は延べ約5-6万㎡となる見込み。総事業費は約200億円を想定、整備費用はNAAが全額負担する。基本設計は日建設計・梓設計JVが担当。貨物ビルを利用するJALが移転した後、2013年夏に本体工事に着工、14年度の完成を目指す。
 工事について川瀬部長は「貨物ビルの機能を維持しながらの施工となり、また航空機との距離も近いため、工事車両の運用などで難易度はかなり高い」と話している。

◇国内線増強へ第2ターミナルに暫定施設

天井を張らないだけでなく、天窓を設けることで
自然光を採光し、照明コストも削減した
既に完成した第2ターミナルビル南側国内線施設の規模はS造2階建て延べ4,035㎡。1階にバス乗降所、2階にチェックインカウンターと手荷物預かり所を設けた。これまで屋外で対応していたジェットスター・ジャパンの国内線チェックインカウンターとなる。設計は日建設計・梓設計JV、施工は清水建設が担当した。
 一方、同ビル北側国内線施設の規模は、軽量鉄骨造2階建て延べ3,200㎡。1階にバス乗降所、2階にエアアジア・ジャパンの事務所を設ける。設計施工は清水建設が担当している。
 南北ともに専用ターミナル完成までの暫定施設であり、完成後の用途についてはともに現在検討を進めている。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月12日12面

 

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