超高層ビルの中を道路が貫く東京都内初の再開発プロジェクトが新橋・虎ノ門地区で進んでいる。この難工事に挑んでいるのは、東京スカイツリーの建設という“未知への挑戦"を果たした大林組。その経験を生かしながら、さまざまな技術を導入し、直面する課題を一つひとつ解決している。工事進捗率は約40%(10日現在)で、地上40階の鉄骨建方を行っている段階だ。現場を指揮する環二・III街区工事事務所の井上隆夫所長は「超高層ビルの建設に加え、その地下部分を環状二号線がカーブしながら貫通するため、柱の位置はミリ単位の高い精度が要求された」と振り返る。
◇ミリ単位で支柱建込み
超高層ビルの高さは247mで、完成後は都内で2番目の高さを誇る。その躯体を環状二号線の中央分離壁が受け止める構造だが、道路のカーブに沿って、正確に柱を打ち込まなければならなかった。「逆打ち工法を採用したが、柱の位置だけでなく、回転角度も合わせないと、掘り下げていったときに梁がくっつかない」(井上所長)ため、東京スカイツリー建設工事などに適用したトータルステーションによる3次元計測システムを導入した。
柱は237本で、一番大きなもので重さは90t近くある。1本のズレも許されない状況下で、計測方法による誤差がないよう現場の周囲にある複数の建物を目印に3次元計測し、その位置出しに当たっては、2つの班が別々の方法で再確認するダブルチェックを実施した。「柱の位置の精度が工事の成否を分ける」(同)が、現在、地下4階まで掘削した段階で、不具合は1本もない。
道路を避ける形で2本の柱が1本になるY字状の部分があり、その構造も施工の難易度を上げた。位置出しが難しいことに加え、Y字状の柱を受け止める杭には、通常の2倍となる6000-7000tの軸力がかかり、在来の杭では支えられない。このため、東京スカイツリーで本格採用したナックルウォール(拡底壁杭)を使った。「これがなかったら実現は難しかった」(同)と語る。
超高層ビルの中を道路が貫く |
また、強度を高めるため、柱の中にコンクリートを充填するCFT構造を採用した。CFT構造自体は珍しいものではないが、この工事では、コンクリートを高さ207mの47階まで圧送するのが大きな特徴だ。「100m級はざらにあるが、80ニュートンのコンクリートを200m超の高さまで圧送、充填するのはいまだかつてない」(同)という。
このため、圧送高さ207mを水平換算した長さ642mの圧送管を現場でつくり、圧送性とコンクリート性状の変化を試験した上で、施工を開始した。現在は約160m(36階)までのコンクリート打設が完了している。
通常、地下を掘り終わるまで開口部は残すが、道路部分の施工があるため、掘削が終わっていない段階で開口部をふさがなければならなかった。道路部分は、ボックスカルバートを造り始めており、残った地下部分を掘削するため、「道路下の地下3階に掘削ヤードを設け、天井クレーン式のクラムシェルを設置し、それで掘削した土は、地下車路スロープを利用してダンプトラックで搬送する」(同)考えだ。この作業は、11月中旬以降、地下4階の躯体ができた段階で実施する。道路部分以外は、開口部がふさがっていないため、通常どおり掘削する。
道路と建築物を一体的に整備する立体道路制度を活用したプロジェクト特性に加え、その建物高さと構造的な特徴から、行政を始め、都市計画、建築、構造などさまざまな分野の注目を集めており、「見学会はほぼ毎日」(同)という。多忙を極める中、2014年3月末完成(再開発事業の完了は14年9月末)に向けて現場と本社が一丸となった作業が続く。
◇工事概要
▽工事名称=環二・III街区新築工事▽施工場所=東京都港区虎ノ門1丁目23~26番▽建築主=東京都▽特定建築者=森ビル▽設計・監理=日本設計▽施工=大林組▽規模=S・SRC・RC造地下5階地上52階建て塔屋1層延べ24万4305㎡▽最高高さ=247m▽主要用途=事務所・店舗・カンファレンス・住宅・ホテル・駐車場▽工期=2011年4月1日-14年3月31日▽敷地面積=1万7069㎡▽建築面積=9363㎡。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月24日 12面
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