シャープ大阪本社 |
町田氏は1998年6月に社長に就任して、液晶にヒト・モノ・カネの経営資源を集中した。当時、半導体は黒字で液晶は赤字だったが、半導体をやめて液晶テレビに集中した。半導体のシェアは世界で20位だったが、液晶は技術力もシェアもトップだった。さらに2001年正月に「日本で製造業を極める」と宣言して、それまでコストの安い中国などで製造していたのを日本での製造に切り替えた。海外で生産すればコストが安くなるが、国内の工場が空洞化してしまう。そうしたことをなくすために三重県亀山市など4カ所に工場を新設し、2工場をリニューアルした。
こうした経営戦略が成功して04年の決算でシャープは、史上最高の営業利益を上げるまでになった。当時は不況によるリストラばやりの中で町田氏は「シャープはどんなことがあろうとも人を大切にし、解雇することはない」と雑誌に書いていた。
ところが町田社長が片山幹彦副社長にバトンタッチしてから、オンリーワン経営にかげりが出始めた。韓国のサムソンや中国、台湾のメーカーに価格競争で敗れ始めたシャープは自慢の亀山工場を一部休止し、人員も5000人程度削減した。
その結果、液晶に経営資源を集中した「一本足打法」の弱点が出てきた。こうした事態になったことに一部メディアでは「選択と集中には罠がある。高収益事業ばかりに集中してしまう慣性が働いてしまう。目先の利益に頼った判断になった」と書いている。
わずか10年の変化である。ゼネコンなども国内の仕事が減少し、民間の工場建設が海外に流れる中で、シャープの仕事を取るために懸命に働き掛けていたこともあった。
シャープのケースだけではない。ゼネコン各社も選択と集中という理由で経営資源を土木あるいは建築に集中することは、その分野での競争力をつけることでもある。しかし、利益が上がり始めると「慣性」が働いてしまい、その部門だけが肥大化して他の部門は社内で発言力もなくなってしまう。経営は生き物であり、いつシャープのように利益が上がっていた部門が損失を出すようになるか分からない。東京電力の福島第一原子力発電所事故のようなことがあれば、その部門はいままでのような収益は上げられない。「選択と集中の罠」に経営者は気をつけるべきだろう。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月29日14面
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