まるで建物があるように見える養生ネット |
この工事は、1930年の完成で東京都の歴史的建造物に選定された「江戸橋倉庫ビル」の外壁を低層部に保存しながら、最新のオフィスビルに建て替えるプロジェクト。養生ネットにビルの実物大写真をプリントするという大胆な試みは、「周辺の街並みや景観に配慮するのが目的で、地域のみなさんや通行者にも楽しんでもらいたい」(三菱倉庫)。高さのあるネットが周囲に与える圧迫感を緩和する効果もありそうだ。
ただ、初の試みであり、こうした分野の専門業者がいるわけでもない。三菱倉庫は、施工を担当している竹中工務店とタッグを組み、手間を惜しまず徹底的に再現の質を追求した。江戸橋倉庫ビルは、建物の角に丸みを持たせた局面壁、基壇部の自然石などに特徴があり、その細部に至るまでをリアルに再現している。実際、「鳥が巣を作りに来たこともある」(竹中工務店)ほどだ。
計60カットの写真を組み合わせて養生ネットにプリントしているが、撮影のアングル、写真の引き伸ばし・割り付け、天然石やガラス部分の色味調整、足場の選定など、これまでの苦労を挙げればキリがない。こうして関係者の汗が染み込んだネットは、工事完了後も保管する計画だ。「将来的な改修工事での活用を視野に入れている」(三菱倉庫)という。
現場のネットに高彩度のプリントを施すと屋外広告物とみなされるケースがあるものの、景観や街並みへの配慮という三菱倉庫側の熱意が伝わり、地元の中央区も協力してくれた。区内の近隣工事現場では、養生ネットにイラストをプリントする動きも出てきた。
現在建設が進められている日本橋ダイヤビルディングは、高層部のデザインにも低層部のイメージを継承する。レトロな雰囲気の外観とは裏腹に、さまざまな環境配慮技術や中間階免震などが盛り込まれた最新鋭の賃貸オフィスビルに生まれ変わる予定だ。
約80年もの間、地域のランドマークとして親しまれてきた江戸橋倉庫ビルは、建て替え後はもちろん建て替え中でさえその姿を消すことはない。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年10月24日 12面
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