建設産業界にとって2015年は、免震ゴム性能と杭データの偽装・流用という、建築物への信頼を損なう出来事に対し、元請けとして、下請けとしてどう今後対応し、信頼を回復するかということが求められた年だった。また首都圏では、土木・建築含め旺盛な需要を背景に手持ち工事高を積み増したほか、20年東京五輪に向けた施設整備も16年からいよいよ本格化する一方、地方建設業界が主戦場にする地方の土木を主体とした公共事業量の減少がさらに進むなど、建設投資の地域間格差がより鮮明になった年でもあった。担当記者による座談会でこの1年間を振り返る。写真は「i-Construction委員会」12月15日の初会合。
◆行政・業界団体・ i-Conで生産性向上へ
A 国土交通省は15年度を「担い手3法」の運用元年と位置付け、歴史的な法改正の実感を生み出すべく、さまざまな取り組みを展開してきた。
B 象徴的だったものの1つが、数十年来の懸案だった「歩切り」根絶の劇的な進展だろう。国・都道府県のアプローチにより、慣例や予算削減を目的とする明らかな歩切りは、全国でわずか3町村を残すまでに減った。
C 9月の関東・東北豪雨も衝撃的だった。国交省は早速対策の立案に乗り出し、堤防のかさ上げや天端の保護といったハード対策に、今後5年間で約8000億円を集中投資することを決めた。
D ことし最大のインパクトは、建設現場の生産性向上方策「i―Construction(アイ・コンストラクション)」ではないか。調査・設計から施工、維持管理までの全プロセスに、ICT(情報通信技術)を全面導入することなどが柱だ。当面は、16年度からの本格始動に向けた基準類整備などの動向に注目が集まる。
E 業界団体では、まず日本建設業連合会が長期ビジョンを3月に発表した。「100万人離職時代」の到来と90万人の新規入職者確保、生産性向上で35万人分確保という目標は、担い手不足に対する業界の漠然とした問題の輪郭をはっきりとさせ、危機意識を高めたという意味で大きなインパクトを与えた。一方、横浜市のマンションの杭問題は、業界全体に波及し、日建連が業界としての対応を示した。
C 生産性向上や協力会社確保に対する業界の意識の高まりは確実に感じられた。今後の業界変革につながっていきそうだ。
B 地域の建設業は、公共工事発注の少なさに振り回された格好だ。全国建設業協会の地域懇談会・ブロック会議でも、大型補正予算編成要望一色となった、せっかく改正公共工事品質確保促進法の運用元年だったのに、そうした議論を深める前に、安定的・持続的な公共工事発注に不安が生じてしまった。結局15年度補正予算案も「不十分」な状態で公共工事発注に対する不安は来年も続きそうだ。
D 公共事業とは別だが、30年度のエネルギーミックスと温室効果ガス削減目標が決まり、目標実現に向けた施策が本格化する。地球温暖対策税が16年4月には最終段階の税収増となり、関連予算が増え、建設産業の企業が手掛ける施策も多くなるだろう。
◆ゼネコン・困難を乗り越えた先に成長
A ことしを振り返ると、やはり業績の回復が最も大きなニュースだろう。
B 中間決算時点で通期業績予想の上方修正が相次いだが、これは過去にあまり例がないのではないか。
C 売上高や受注高はほぼ横ばいだが、利益面はまさに“爆上げ”だ。
D なぜこんなに利益が上ぶれしたのだろう。リーマン・ショック以降、ゼネコン各社は建築事業の利益悪化に苦戦し、セグメント赤字も珍しくない状態だった。
A 各社とも利益至上の諸施策を打ち出してきたが、そうした企業の自助努力が効いたのは言うまでもない。今回はそれに加えて、労務費の上昇が一服し、資機材価格も弱含みに転じたことで利益を大きく底上げした。
C しかし、胸をなで下ろしている暇はない。来年からは、20年東京五輪の関連需要が徐々に顕在化し、労務費や資機材価格が再び上昇に転じるとの見方が強い。
E 東京五輪といえば、紆余曲折を経て新国立競技場の設計施工者がようやく決まった。
D エンブレム問題なども含め、コンペや入札に対する国民の関心がいろいろな意味で高まったかもしれない。
B 新国立競技場は工期、コストともに非常に厳しい条件だが、国民からの期待は大きい。一方、リニア中央新幹線もこれから未曽有の難工事が予想される。
E 日本のゼネコンは優秀だ。新国立もリニアも、必ずやり遂げてくれるだろう。
A 心配な問題といえば、やはり杭の問題だ。
C ある大手ゼネコンの社長は、「業界の構造的な問題が露呈した」と危機感を隠さない。特に建築分野では、下請け次数の削減が業界を挙げての課題だっただけに、インパクトは大きい。
E 困難を乗り越えた先に成長がある。それは人間も企業も業界も同じだ。
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