2013/06/09

【現場最前線】都内で「山岳工法」! 首都高品川線中目黒換気ダクト接続


 高級住宅地であり、おしゃれな街並みが人気を集める東京・中目黒。東急東横線の中目黒駅からほど近い山手通りの地下では、都市土木でありながら山岳工法によってトンネルを構築する珍しい工事が進んでいる。首都高速道路中央環状品川線の関連工事で、熊谷組・京急建設JVが施工する換気所ダクト接続工事だ。換気所立坑から地下10階まで下り、現場を取材した。

横坑4トンネル内部に設けられたセントル
東京都が発注した「中央環状品川線中目黒換気所ダクト接続工事-2」は、既に完成している換気所立坑と本線シールドトンネルとの間に、ダクトとなる横坑などを構築する工事。NATMによる横坑は、本線上部に位置する地下6階部分に3本、本線下部の地下10階部分に1本の計4本を整備する。横坑と本線などを結ぶ鉛直ダクト(シャフト)は計7本。送排気ダクトに加え、緊急時の避難連絡通路も整備する。

◇地盤改良3種を組み合わせ

凍結工法の注入口
この現場では出水対策として、本線の上部や周辺に地盤改良工事を追加実施している。施工条件を踏まえながら本支店を交えて検討した結果、地盤改良は3つの異なる工法を組み合わせることにした。地上部からダブルパッカーによる薬液注入を実施する一方、本線シールド内部からは低圧浸透工法で薬液を注入。さらに横坑周辺には凍結工で凍土を造成している。山岳工法を採用しているとはいえ、山岳トンネルではないため水に対してはよりシビアな対応が要求される。
 近接する本線シールドトンネルに影響が出ないよう、センサー類でセグメントの変位などを計測しながらの慎重な施工が求められた。地盤改良後、探査ボーリングを経て順調に掘り進め、横坑4本の掘削を無事に終えた。現在の進捗率は約8割。横坑の仕上がり内径は5-5.7mで、4本の総延長は135.5m。アーチ部には中流動コンクリートを採用するなど施工品質にも配慮している。

◇スタッフは2倍

現場の概要図
施工中は、隣接して複数の工事が同時並行で進んでいるため、関連工事とのさまざまな連絡調整が必要となる。さらに工区によって発注者が東京都と首都高速道路と異なっている。熊谷組の大北(おおぎた)原次所長は「連絡調整に多くのマンパワーが取られる。通常の現場に比べて2倍のスタッフが必要」と話す。
 都市土木の現場では施工上さまざまな制約があるが、この現場も例外ではない。換気所立坑からクレーンで資機材を上げ下ろしするものの、開口部はわずか4.5m四方しかない。また、地下10階部分の現場までは階段で上り下りするが、「1日に何往復もすることがある」(大北所長)となると肉体的にもこたえる。現場内では作業場所が分散している上にアクセスが悪く、遠回りしてようやくたどり着く部分もある。
 中目黒という場所柄もあり、近隣対策には非常に気を使う。地下の現場は24時間体制だが、沿道対策として地上部での工事車両の出入り時間には制限を設けている。一方、作業員に対してもモラルや身だしなみの徹底を呼び掛けているという。
 大北所長は「工期、コストともに非常に厳しい工事だが、安全を最優先して工事を進めている。工期内に無事故で引き渡せるよう、協力会社を含め全員が一致団結して取り組んでいる」と、完成に向けた意気込みを語る。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年6月5日

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