左官職人を専門技能士「ファサディエ」と位置付け、建物の壁をキャンバスに高度な意匠を作り上げるゲーテハウス(小野勘社長)。社長自ら「われわれの仕事は人材能力開発だ」と言い切るほど、ゲーテハウスの壁施工に対するこだわりの姿勢は徹底している。左官という仕事を、単純に塗る技能から、芸術性を兼ね備えた高度な技能へと昇華させるのが目指すかたちだ。それを実践する、協力会社で組織するファサディエ会の藤村清治会長も「お客さまから喜ばれることが至上の喜び」と、やりがいを感じている。壁へのこだわりと、ファサード職人の地位向上への取り組み、そして同社が初めて施主となり、左官技術を活用して4月にオープンした有料老人ホーム「アズハイム横浜いずみ中央」を紹介する。
◇ファサディエ会
ゲーテハウスは、2008年12月に「ファサディエ会」を設立した。翌年2月に初めての総会が開かれ、技能職人の地位向上を目指す活動「新・職人ファサディエルネッサンス」を掲げてスタートした。現在約180人が加入している。将来的には、数万人規模の組織を形成することを視野に入れている。
そのファサディエ会は、左官による造形を工業製品にはない芸術性のある作品としてとらえ、建物外壁などを中心に湿式工法の普及や職人の技能向上を目指している。
小野勘社長は「ファサディエは、建物の顔であるファサードを司る職人。熟練技術に加え、高い芸術性も要求される」と話す。将来的には、すぐれた技能を持つ左官職人を「ファサディエ・マイスター」として認定する制度も実現したいという。
さらに、従来の左官技能にとらわれない仕上げ開発、職人がものづくりに対する誇りを取り戻せるよう、職人全体の地位向上にも取り組む。
10年5月には、東京・元赤坂の明治記念館で左官技能大会「ファサディエオリンピック」も開催した。オリンピックに参加したのは、会の選抜8チームで、会場に陳列した8作品を来場者約350人が投票して金、銀、銅を競った。
◇facadiers News
「左官屋さんからのお手紙」という副題が付けられたA3サイズの会報がある。『facadiers News(ファサディエ・ニュース)』で、月1回ゲーテハウスが発行している。会報はこの5月で48号を数えた。4ページ構成で、月々のトピックス、現場紹介、ファサディエ・オールスターズと呼ばれる所属会員らの近況報告、総会連絡などを掲載している。編集・発行は社内の「新聞部」メンバーだ。1000部以上を印刷して会員の自宅まで郵送している。「家族にも見てもらえるので、父の仕事がよくわかる」という。
また、「ニュース(会報)は、自分と職人を結びつけるコミュニケーションツール」(小野社長)を裏付けるように、ニュースの発行で職人同士がお互いの顔を知り、当初はなかった連帯感が生まれている。
さらに総会などでの交流も含め、ほかの職人の技術が見え、お互いが切磋琢磨、研鑚できるようになった。
客先からのクレームなども掲載しているので、事例を共有して次に生かすこともできるという。
この会報は、毎月無料配布している。会報購読・ファサディエ会入会希望の方は企画室まで連絡を。
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ゲーテハウス株式会社企画室
〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1-10-1
電話:03-3668-2451 ファクス:03-3668-2457http://www.goethe.co.jp
◇お客さまへ「感動」を
現場での藤村会長 |
「左官は、人によって技術のレベルもセンスも違う。だから外壁などの施工では、一面をすべて同じ職人が担当する」
左官の仕事は工業製品と違い、人が手作業で仕上げる。仕上げはブロアー、トローウェル、石積などの工法があるが、最後は鏝(こて)を使ってハンドメイドで表情を付けていく。
「木ずりやコテムラなどは、単純でも味のある表情が出る。できるだけ多くの人にこの仕上げを感じてほしい」のが藤村さんの考えだ。
ファサディエ会の発足後、多くの協力会社のレベルが平準化され、施工レベルが一定になったという。顧客からのクレームも減った。
藤村さんは「この仕事をしていてお客様から“仕上がりに感動した"という言葉も頂く。この言葉をもらうと、仕事のつらさもいっぺんで吹き飛ぶ」と相好(そうごう)を崩す。
ただ、悩みもある。悩みは若手職人の育成だ。「若い人にこそ、家でも練習するくらいがんばってほしい。それだけの価値がある仕事だと思う」と力を込める。入職者も少ないが、ファサディエ会を挙げて若手職人の定着に取り組んでいる。
◇復興にも寄与
完成した木ずり仕上げの復興住宅 |
住宅は鉄骨フレームの工場製作ユニット工法を採用。内装、電気・衛生設備まで工場内で製作し、現地ではユニットを結合するだけで住宅が完成する。
左官仕上げの外壁は、夏の暑さを和らげ、潮風にも耐久性がある。木製ペアガラスサッシも合わせた外観で「癒しの仮設住宅を目指した」という。
仮設住宅の施工は6月、7月にピークを迎えたが、高温に加えて短工期が求められる中、ファサディエが懸命の施工を行った。
◇アズハイム横浜いずみ中央
完成したアズハイム横浜いずみ中央 |
施設は横浜市が行った事業者公募に同社が応募、採択されて実現したもので、約半世紀にわたって保有してきた土地を有効に生かすプロジェクトとして実施された。
小野社長は「愛着のあるこの場所で、福祉施設として地域の皆さんに役立ち、福祉業界にも貢献できることは喜ばしい」と意義を感じている。
しかもこの物件は、ゲーテハウスにとって第1号の開発物件であるだけでなく、運営会社のアズパートナーズとしても10番目の施設となる記念すべき物件になった。
設計を担当した大竹建築研究室は、ゲーテハウスが供給した応急仮設住宅も担当している。代表の大竹慎太郎氏は「このツーバイフォー耐火工法で建築する3階建て老人ホームは、耐火工法の可能性を広げた。今後も大いに展開されると思う」という。
さらに施工を担当したワンズライフホームも、日頃からゲーテハウスに住宅の外壁を発注している企業で「高齢者住宅の木造建築のメリットと可能性を改めて感じた。今後も木造ならではの特長を創造していきたい」としている。
◇工事概要
木造で実現した大空間が特徴 |
▽所在地=横浜市泉区和泉町3300-1
▽敷地面積=2194㎡
▽構造・規模=木造3階建て延べ3124㎡
▽総居室数=79室
▽居室面積=18.63㎡
▽外壁=ゲーテウオール(木ずり)
◇仮設住宅に捧げた3ヵ月/フロンティア事業部チーフ 平岡靖久さん
2011年5月から8月上旬にかけて休日返上の仮設住宅プロジェクトに携わった。「時間との闘いの中で岩間事業所に泊まり込んで、岩手県大槌町に供給する約140戸の仮設住宅の製作工程管理を行いました」
夏にさしかかって気温が増す事業所内で、職人とともに住宅を製作、トラックで200台分となる大量の住宅と資材を岩手に送り出した。「完成した住宅の入居者から“この住宅はAランクだね"という言葉を頂きました」という。
約3カ月ぶりに千葉の自宅に帰って「自分の仕事が社会貢献できて本当に良かった」と感じたそうだ。
◇全国の工務店を読者に/企画室マネージャー 永井奈加さん
この5月で48号目を数える『ファサディエニュース』の担当者。日常では、企画、総務、広報、デザインまでをカバーする企画室のマネージャーを務める。
ニュースは当初、ファサディエ会の情報連絡だったが、すぐに毎月の発行が決まった。記事の内容を充実させたいと思い、社内の有志が集まって「新聞部」を立ち上げた。40号からは新聞部6人体制で情報収集と記事の作成にあたっている。
「今の発行部数は1000部ですが、将来的には全国的に数万部発行したい。全国の左官屋さんや工務店さんがみんな読んでいる媒体を目指したい」と話す。
◇ゲーテハウスを広くPR/企画室チーフ 根岸和道さん
永井マネージャーと同じ企画室で、広報・宣伝担当を務める。自社製品、企業の事業活動、社会貢献活動をPR。持続可能な経営をサポートすべく、質の高い情報提供を目的としている。物・情報があふれる時代の中で、大きな流れを起こせることが業務の成功の形と話す。業務の中で、広報や施工の反響がダイレクトに返ってくるのが、モチベーションに繋がるという。
ゲーテハウスは、社長と職人、社員とのコミュニケーションも非常に密な会社だ。「この距離感をずっと大切にしながら、当社の活動を広くPRしていきたい」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年6月10日
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