2013/06/08

【インサイドスコープ】南海トラフ巨大地震 最終報告

5月28日、政府の中央防災会議は『南海トラフ巨大地震対策 最終報告書』を公表した。東日本大震災を契機に、「南海トラフ巨大地震モデル検討会」が2011年8月に発足してから2年弱余り。この間、計4回にわたり、「震度分布・津波高・浸水域」「建物被害・人的被害・施設被害・経済的損失」について各推計を公表、今回ようやく最終報告にこぎ着けた。「想定外」の言い訳をしないために、「最悪の推計と対策」を示すことで、大規模災害発生を「正しく恐れる」ことを主張する『最終報告書』は、どのような位置付けなのか。


 最終報告書をまとめた作業部会で主査を務めた河田惠昭関西大教授は5月28日の会見で、「対策の課題と対応の考え方を減災哲学として明示し、事前防災と災害発生時の対応を具体的に記述できた」と胸を張った。
 報告書を受け取った古屋圭司防災担当相は、「津波からの人命確保、甚大で超広域的な被害対応などに国を挙げて取り組む必要がある」と応えた。

◇  ◆  ◇

 今回の最終報告書は、震度分布・津波高や建物・人的被害、経済的損失などこれまで4回にわたって公表した被害推計がベースだ。
 そのため「想定外を避ける」ため、最大クラス(マグニチュード9級)を前提に、50m四方間隔の震度・津波高想定の初公表時から地方自治体に大きな衝撃を与えた。
 12年春、自民党本部会議室で、高知県内のある町長は悲鳴を上げた。
 「地震はいつくるか分からない。とにかく対策をしなければならないが、このままでは防災対策だけで財政破たんしてしまう。早く支援してほしい」
 悲鳴の原因は12年3月、南海トラフ巨大地震のモデル検討会が公表した「最大クラス(マグニチュード9級)の地震の津波高が30m超」に町長を務める自治体が含まれていたからだ。首長の衝撃は推計地図で、太平洋沿岸地で津波高10m超を表す真っ赤な色で染まった自治体全てに広がった。
 この衝撃が、11年10月に自民党内で立ち上がった国土強靱化総合調査会での、国土強靱化基本法案、南海トラフ巨大地震・首都直下地震の2つの特措法案(いずれも当時)議論と提出に向けた動きを加速させた。
 12年8月、モデル検討会が公表した「死者最悪32万人」想定の被害想定1次報告は、太平洋沿岸域を抱える自治体の事前防災・減災事業最優先を決定付けた。
 南海トラフ巨大地震発生への対応で連携した「9県知事会議」は同年11月、当時与党だった民主党の災害対策調査会に、事前防災・減災事業を確保するための新たな枠組み創設を骨子とした政策提言書を提出。
 8月の最悪を想定した被害推計が、それ以前に政府の中央防災会議が公表していた東海・東南海・南海地震の想定被害の10倍以上となったことを受け、出席した尾崎正直高知県知事は「(東日本大震災は)明日はわが身。最悪ケースの県内死者数4万2000人は、防災対策で8000人まで減少する。ただ死者ゼロにするまでの対策が必要。そのためには財源・技術で国の支援が必要だ」と訴えた。
 9県知事会議の大規模地震への危機感は、政権交代後の安倍政権に、古屋防災担当相に新たに創設した国土強靱化担当相を兼務させる形で伝わった。
 さらに最終報告へ向けた議論に対応する形で、政府は3月、事前防災・減災へ向けた議論の場としてナショナル・レジリエンス懇談会を設置。南海トラフ巨大地震対策に国、自治体が早期に取り組めるよう、脆弱(ぜいじゃく)性評価のあり方を先行して進めていた。

◇  ◆  ◇

 またこうした政府の取り組みを与党も支援。国、自治体の全ての政策に事前防災・減災の考え方を取り込むことを目的に、国土強靱化基本法案を自民・公明両党が提出していた。
 つまり、南海トラフ巨地震への対応として、巨大地震発生時の最悪と対策効果の推計を順次公表してきたことで、最終報告書がまとまる段階で、政府体制、法的対応、世論含め事前防災・減災へ向けた方向性が既に固まっていた。

【最終報告書公表での会見要旨】
◆河田主査
 「津波被害はその被害の大きさから最重要課題だが、大津波の発生する地域には強い揺れが長期にわたり続くため、耐震診断や耐震補強も不可欠だ。建物をまるごと一棟改修する従来の耐震化だけでなく、建物の部分改修を認める新しい制度設計を国土交通省住宅局が主導するようお願いしたい」
 「防災教育については小中高等学校の学習指導要領の改正を文部科学省にお願いし、各教科において防災・減災の内容を紹介することで、長期的に国民に災害文化が確立することを期待する」
 「今後検討すべき重要な課題は、現在進行中の首都直下地震の見直しに関連するものであり、十分な検討を重ねる必要があると考えている」
◆古屋防災担当相コメント
 「政府の取り組みとしては、今回の報告を踏まえた南海トラフ巨大地震対策のマスタープランの再考、予防対策の目標を整理した事前防災戦略の策定、応急対策の具体的な活動内容の計画策定がある。今後開催予定の防災対策実効会議で議論を進め、今年度中のできるだけ早い時期に策定したい」

Related Posts:

  • 【復興特別版】2998mの唐丹第3トンネルが着工! 釜石市内へのアクセス円滑に 東北地方整備局が震災復興のリーディングプロジェクトとして整備を進めている三陸沿岸道路で2番目に長いトンネルとなる、唐丹第3トンネル工事の着工式が23日、岩手県釜石市唐丹町大曾根の現地で開かれた。今後、鹿島の施工で掘削工事が本格化する。  同工事は、三陸沿岸道路の一部をなす吉浜釜石道路の釜石南インターチェンジ(IC)~釜石ジャンクション(JCT)間で、長大トンネルと釜石南ICを築造する。 トンネルの概要は、長さ2998m。内空断面積は… Read More
  • 【未来のまち】1/500模型を七郷小157人が制作 仙台市定禅寺Gallery(竹中工務店)で展示 竹中工務店は、東日本大震災からの復興に向けて小学生たちが作ったまちの模型を同社東北支店の「定禅寺Gallery」(仙台市)で展示している。模型は500分の1スケールで、仙台市立七郷小学校の6年生4クラス計157人が制作した。10年後の未来のまちには、「小学生から大学生までみんなで遊べる学校」「人と動物が仲良くできるふれあい公園」「皆が集まる集会所(震災時は避難所)」など子どもたちの自由な発想が盛り込まれている。  この企画展「復興を担う子… Read More
  • 【復興特別版】霊山道路金弁蔵トンネルが貫通! ICT活用で安全・効率施工 東北地方整備局が、復興支援道路として整備を進めている国道115号相馬福島道路・霊山(りょうぜん)道路の(仮称)金弁蔵(こんべんぞう)トンネルが14日、待望の貫通を迎え、福島県伊達市霊山町の現地で式典が開かれた。施工は飛島建設が担当。今後、覆工コンクリート工事などを進め、8月末の竣工を目指す。霊山道路は2017年度に開通する予定だ。写真は貫通した切羽から日射しが差し込む金弁蔵トンネル。  相馬福島道路は、1日に全線開通した常磐自動車道と東北縦… Read More
  • 【復興特別版】JR石巻線が全線再開! 坂茂氏設計の女川駅と温泉「ゆぽっぽ」も開業 大津波による壊滅的な被害から4年。宮城県女川町の「まちなか再生」が大きな一歩を踏みだした。21日にJR石巻線が全線で運転を再開。これにあわせて女川駅の新駅舎と町営の温泉施設を合築した新たなにぎわい拠点では「おながわ復興まちびらき」が開かれ、中心市街地での復興まちづくりが本格化することを内外にアピールした。写真は完成した駅舎の前でテープカットする代表者ら。  JR石巻線は、震災によって小牛田(こごた)~女川間の44.7㎞全線が不通となったが… Read More
  • 【コンペ】南三陸町志津川地区の八幡川に架かる橋梁デザイン募集、6月まで 審査に隈氏ら 宮城県南三陸町は、『復興の橋』デザインコンペを実施する。応募登録は6月8日まで事務局を務める新建築社で受け付ける。同中旬に1次審査結果を通知する。7月19日に同町ベイサイドアリーナで公開2次審査を行い、9月1日に審査結果を公表する。最優秀案をベースに建設し、2017年度の完成を目指す。写真は隈研吾氏によるグランドデザインの模型。  参加資格は、グループ・個人は問わないが、代表者が35歳以下であること。 上流側の『中橋』は隈研吾氏が設… Read More

0 コメント :

コメントを投稿