2013/06/29

【現場最前線】営業線を10本またぐ難工事 首都高横浜環状北線の新子安鉄道交差部

横浜市神奈川区子安台から、JRの横須賀線、東海道本線、京浜東北線と京浜急行本線の直上約12mをまたぎ、緩やかな曲線を描きながら生麦方面に伸びる巨大な橋桁。この施工中の跨線道路橋は、横浜環状道路の北側区間を形成する横浜環状北線の一部で、鉄道営業線10路線に加え国道15号、横浜市道をまたぐ橋桁7本と基礎・橋脚6基を建設する。国内でも類を見ない難工事に挑んでいる鹿島・前田建設・京急建設JVの山崎秀治所長は、「鉄道の運行を阻害せず、そして工期を厳守するため、さまざまな技術を惜しみなく投入している」と明かす。


◇重さ1000トンの桁

 橋桁の架設には、鉄道営業線の安全を確保するため送り出し架設を採用。子安台の作業構台で地組みした桁の先端に手延べ機を取り付け、モーターを搭載した自走台車と、小型のベルトコンベヤーのようなエンドレス装置により、重さ1000tを超える桁を毎分0.5-2.5mの速度で送り出す。桁の幅員が徐々に狭まる桁もあるため、その変化に合わせて方向修正が可能な装置で対応する。
 この架設で最も特徴的なのが、道路線形に合わせた曲線の送り出しだ。送り出し架設は直線が一般的だが、「自走台車の内輪と外輪の各回転速度をインバーターで制御し、内輪を遅く、外輪を速めに回す」ことで曲線送り出しを実現した。
 現在、JR線と京浜急行本線をまたいでいる橋桁は、この曲線送り出しで架設した本線外回りで、全長約210mのうち約90mを送り出した。ただ、本線外回りは途中で桁がランプと分岐しているため、「桁を前後に分割し、先に架設した幅員の広い桁にレールを敷き、その上に分岐した本線先端の狭い桁を載せて送り出し架設する」という。一方、全長約230mの本線内回りはすべての桁を一括で送り出す。


◇入り組むランプ

 中央部分の本線外回りと内回りの桁架設完了後、内回り出口、外回り出口、関連街路の岸谷生麦線は、横取り架設で桁を据え付ける。本線から桁を縦に送り出し、所定の位置に達したら専用設備で横方向にスライドさせ、油圧ジャッキによる一括降下装置で橋脚に据え付ける。通常はH形鋼を井げた状に積み上げた仮受け台からH形鋼を徐々に引き抜きながら桁を降下させる「サンドル降下」が一般的だが、かなりの日数を要するため、「特殊な一括降下装置を使うことで、大幅に工事日数を短縮させる」計画だ。

◇電車に細心の配慮

 この工事で繊細さが求められるのは、桁架設だけではない。鉄道営業線に近接する基礎・橋脚工にも細心の注意が払われており、電車の運転士が視覚的な不安を感じないようできる限り高さを抑えた低空頭型の機械を使用している。さらに、クレーンにも運行を妨げないよう通常よりも細かく旋回範囲の制御設定ができるリミッターを付けた。
 基礎・橋脚6基のうち、比較的浅い深度の3基は工事を終えている。残り3基は20m以上掘削しなければ支持層に到達せず、地下水位も高いため、直径7mの小断面基礎にも対応可能なスリムケーソン工法を採用した。現在、JR線と京浜急行本線の間に構築する基礎を施工中で、JR線から6m、京浜急行本線から5mという近接工事のため、「軌道に影響しないよう管理には十二分に注意を払っている」と口元を引き締める。
 「午前10時と午後3時の休憩時間を狙って現場に行き、冗談を交えながら作業員に声を掛ける」のが日課だ。現場で働く人たちに一体感を醸成する環境をつくりながら、2016年度の完成を目指す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年6月26日

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