2013/11/17

【現場最前線】トルコ150年の夢を日本の技術が実現 ボスポラス海峡横断鉄道トンネル

巨大な沈埋間の曳航
10月29日、トルコ建国90周年の記念すべき日に、大成建設JVが技術の粋を集めて施工したボスポラス海峡横断鉄道トンネルが華々しく開通した。2004年8月に着工した工事は、世界最深の水深60mでの沈埋函接続、海中での異種トンネル直接接合など、世界初となるチャレンジの連続だった。潮流との闘い、遺跡の発掘による工期の延長など、工事中に立ちふさがった幾多の難題を高度な技術力とチームワークで克服し、日本の建設技術の優位性を世界に向けて証明した。06年1月から12年3月までプロジェクトを統括する工事長を務めた同社国際支店の近江秀味専務執行役員(トルコ・ボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事担当)に当時の取り組みなどを聞きながら、世紀の大事業を振り返る。


沈埋部分とシールド部分の直接接合
アジアとヨーロッパを海峡下のトンネルで結ぶ構想は、オスマントルコ時代の1860年に設計図が描かれ、「トルコ国民150年の夢」とも呼ばれる国家プロジェクトだ。
 大成建設は、トルコのガマ社、ヌロール社とJVを組み、海峡を横断する約1.4㎞の沈埋トンネルと、それにつながる陸上部のシールドトンネル約9.5㎞、3つの地下駅と1つの地上駅を含めた総延長約13.6㎞区間の設計施工を担当した。


◇世界有数の潮流速/独自システムで連続36時間予測

 プロジェクト最大のポイントとなった海峡横断トンネル部には、長さ98.5m-135m、高さ8.6m、幅15.3mのRC沈埋函計11体を海底でつなぎ合わせる沈埋工法を採用した。函体製作の工夫や独自開発した「潮流予報システム」の働きなどにより、実質約1年の短期間で全函体がつながった。
 「沈埋函を沈めるのに一番苦労した」と近江氏が振り返るように、ボスポラス海峡は世界有数の潮流速と、上下層が逆向きの潮流で知られ、沈埋工法での施工は困難を極めると言われていた。
 「潮流の弱い日を選ぶのは『賭け』のようなもの。2時間も経てばすぐに流れが変わる」(近江氏)ため、安全で正確な函体の沈設に向けては1年かけて気象・海象をモニタリングし、潮流予報システムを独自に開発。現場付近の水位や流速をリアルタイムで観測し、連続36時間の潮流予測を実現した。システムの予測により、「11函体の沈設作業で、工事を中断したのは2回だけ」だったという。
開通2日後のウスクダル駅


◇洋上構築/「100年耐久性」洋上で沈埋函製作


 巨大な沈埋函の製作に当たっては、世界初となる「洋上構築」を採用した。現場から40㎞離れたツヅラの函体製作ヤードで函体の下半分にコンクリートを打設後、洋上に架設した桟橋まで運び、上半分を打設する。函体1つの製作には約8カ月かかるため、近江氏は「工場製作の回転率を上げるため、洋上に曳航して作業した」と説明する。
 沈埋函は高い水圧に耐えるため、1つの函体に約1600tの鉄筋を使ったほか、「鉄筋をカバーするコンクリートを厚くするとともに、塩水に耐えるためコンクリートの質を工夫した」(近江氏)という。
 沈埋トンネルはマルマラ海沖の地震を想定し、「マグニチュード7.5の地震にも耐える」(同)構造になっており、発注者要求の「100年の耐久性」を満たしている。
 海峡部を横断するトンネルの工法は、列車が走れる勾配(3%以内)や駅部分と地上のアクセス距離などを考慮し、沈埋工法が工事発注時の要求事項だった。近江氏は「シールドマシンで海底を貫いた場合、両側の駅をより深い位置に設置しなければならず、避難に時間がかかるなどの課題があった」と沈埋工法採用の理由を説明する。
イェニカプ駅構内


◇異種トンネルの海中接合
 立坑なしで沈埋とシールドの異種トンネルを海中で直接結合したのも世界初の試みだった。陸地と海底トンネルの間を人工地盤で埋め立て、陸地からシールドマシンを許容誤差10cmの精度で海底トンネルに到達させ、特殊技術で止水した上で、接合した。
 陸上トンネル部には、シールド工法を採用。一部を除いて5台のシールドマシンを使い、住宅密集地の地下を建物に影響を与えることなく掘削した。セグメントは品質確保を徹底するため、ゲブゼに新工場を建て、現地で約1万3000リングを製作した。
 鉄道トンネルの開通により、これまでフェリーで約30分かかっていた海峡間の移動が4分に短縮されるほか、海峡にかかる2つの橋の渋滞緩和にも大きな効果が期待できる。
 「沈埋函を設置し終わった時や、沈埋函とシールドを接合した時の感激も大きかったが、いまは感無量としか言えない」。100年後も円滑な海峡横断を支える新たな交通手段の構築に携わり、近江氏はこう喜びを噛み締めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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