『エコ・サニテーション』屎尿をバクテリアでコンポスト化する |
◇新興国へ普及
世界の人口は2050年までに96億人に達する見込み。人口が増え続ける中で、新興国などでは下水道などのインフラ整備が追い付かず、現時点で世界の25億人がトイレのない生活を送っている状況だ。国連では、この数値を15年までに半減させる目標を打ち出しているが、人口増を背景に目標の見直しを迫られている。
今井室長は「そもそも水洗トイレはインフラの整備が前提であるだけに、資金不足に悩む新興国にとって、無水トイレのニーズは大きい」と強調する。排泄物は川に流れ、それを飲み水にしている国や地域も多く、健康被害も広がっている。海外展開を成長エンジンに位置付ける同社にとって、無水トイレの実用化は新興国進出の“武器"になることは間違いない。
研究を進める循環型無水トイレシステム『エコ・サニテーション』は、トイレの床下に置いた装置内で、し尿を乾燥、発酵分解するもので、バクテリアを使ってコンポスト(たい肥)化する。1人当たりの飲み水が1日2リットルであるのに対し、処理水の量は生活用や工業用を含めて約300リットルに達する。水を使わずにし尿を処理した場合の節水効果は大きい。
アフリカ開発会議にはコンセプトモデルを出展 |
◇5年前から開発着手
研究に着手したのは5年前。実用化に向けて10年からベトナムのハノイ建設大学と、12年からは徳島県上勝町との共同プロジェクトをスタートさせた。一般の住宅にトイレを設置し、コンポスト化までの原理を多角的に検証中だ。上勝町ではシャワートイレやコンポスト用ヒーターなど最低限の処理水と電力を使う「先進国向け」を、ベトナムでは一切の水と電力を使わない「新興国向け」のシステム開発を進めている。
水洗トイレと大きく異なるのは、し尿処理のインフラ部分まで含めた開発を行う必要がある点だ。技術的な焦点は、薬品を使わず、バクテリアのみを使い、いかに衛生的にコンポスト化できるか。さらに新興国への普及にはどこまでコストを落とせるが重要な要素になる。「インフラ機能の部分まで担うことを踏まえると、実用化には購入時に国が資金の一部を援助するような枠組みも議論すべき重要なポイントの1つだ」(今井室長)と考えている。
下水道整備が遅れているインドネシアでは国際協力機構(JICA)の採択を受け、年内にも研究がスタートする。水洗トイレの普及が約3分の1というケニア共和国でも、研究プロジェクトを立ち上げる計画だ。ニーズは先進国にもある。東日本大震災では、下水処理場などが被害を受け、水洗トイレが機能しない状況となった。同社はベトナムで開発中の新興国向けシステムを、宮城県の南三陸町と石巻市の避難所に設置した。
トイレが発明されたのは19世紀。快適性などを考慮した多機能型水洗トイレの技術開発が進むが、機能のあり方自体が見直されるようなイノベーションは起こっていない。今井室長は「無水トイレはビジネスチャンスであるとともに、新興国25億人を見据えたCSR(企業の社会的責任)の取り組みでもある」と確信している。
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