隅田川橋りょう(仮称)全景 |
墨田、江東、葛飾、江戸川の4区を所管区域とする第五建設事務所。しかし、橋りょう建設課の仕事は、その所管区域に限定されない。
有江誠剛課長は「五建でありながら、隅田川、荒川、中川、江戸川と臨海部の5つのエリアに架かる橋梁を所管している。特に長大橋の整備に特化した部隊になる」と、その特徴を説明する。
現在、事業を進めているのは築地地区と勝どき地区をつなぐ環状第2号線の「隅田川橋りょう(仮称)」。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催でより一層、重要度が増す「環2」で、隅田川に架かる長さ245m、幅32.3-48.0m規模の長大橋が着実に進捗している。
同橋は、08年に完成した「環2・豊洲大橋」と並び、都心部と臨海部の交通ネットワークの核、あるいは避難ルートの多重化といった防災性にも寄与する重要な社会インフラの一つ。ニューマチックケーソン工法を採用した橋脚や橋台などの下部工は今年度末にも完了、来春にも鋼桁の架設が行われる見通しだ。
完成予想に描かれる優美なアーチ構造は、永代橋や清洲橋、勝鬨(どき)橋など、隅田川に架かる著名橋にも劣らぬシンボル性を放つ。
◇「造るノウハウ」への自負
しかし、こうした橋梁の新規整備は全国的に見ても決して多くはない。成熟都市とも言われる東京も例外ではないのが実情だ。
公共事業が新規整備から維持管理へと軸足が大きく移りつつある中、有江課長は「これだけインフラの整備水準が向上すると、メンテナンスは非常に重要になる。長寿命化のような維持管理の分野には“守る"難しさがある。ただ、新たな構造物を建設するには、同様に“造る"難しさがある。造るという意味での技術力は、発注者としてきちんと継承していかなくてはならない」と語る。
例えば、同じ橋梁の整備でも、補修や補強といった延命化と、架け替えや新設では事業の性質が異なることは言うまでもない。「橋梁を架け替えるには仮橋を整備するケースもある。そのためには周辺の用地を必要とする場合も出てくる。当然、工期の長さや影響の範囲は長寿命化事業とは異なってくるため、地元や関係者への調整を含めた計画の立て方も違う」(有江課長)。
その言葉の裏側には、これまで蓄積してきた「造るノウハウ」に対する自負がある。
発注者となる官側に限らず、受注者となる民間サイドにも同じことが言える。ストック市場が拡大基調にある中で、守ることと造ることのバランスをどうとるか、個々の企業にとっても、経営戦略における比重はまだ見極めの段階にあると言っていい。
◇予防保全へのシフト
都建設局は、09年に都道に架かる約1250橋梁を対象に『橋梁の管理に関する中長期計画』を策定した。従来のように数十年おきに架け替えるという概念を転換、長寿命化の考え方を基本に戦略的な予防保全型の維持管理形態にシフトしている。
橋梁分野における都の発注工事をみても、補修や長寿命化といった維持管理の割合が増加。新設と維持管理の割合は逆転傾向にある。
実際に日本橋梁建設協会が公表している鋼橋の統計データの受注実績によると、1995年の約86万tをピークに減少傾向にあるなど、全国的にみても、その状況に変わりはない。
とはいえ、「守らなくてはいけない技術力がある」--。この言葉に集約されるように、造るノウハウは新設でしか得られないのも事実である。
有江課長は「現場を通して見えるのは、われわれが利便性を享受しているインフラを本当の意味で支えているのは、人の技術だということ。鋼桁の製作ひとつとっても、塗装や溶接など職人一人ひとりの精度や技量が構造物を支えている」と話す。
「逆に言えば、われわれにも成果品の品質を厳しく見ていく目、現場で何が起きているかを見抜く、あるいは見極める力が必要。それが、発注者としての責任や技術力であって、その技術力を継承していくことは非常に重要になっている」とも。
人の重要性がクローズアップされる近年の建設産業。発注者と受注者、官と民という垣根を越えて、建設産業として継承していくべき技術力がそこにはある。
◇ミリ単位で架設するプロの“すご技"
豊洲大橋の桁架設 |
新設橋梁の難しさは、水域利用者との調整にある。道路整備での車と同じように、河川や運河には船という利用者がいる。豊洲大橋は、3000t級の起重機船で桁を架設したが、その際、航路は一時的に閉鎖せざるを得ない。工場製作となる鋼桁は広島県や山口県などの遠方から、架設のタイミングに合わせて4-5日かけて運搬されてくる。天候なども考慮しながら日程を組み、調整を進めるのは発注者の重要な責務だ。08年度に架設した豊洲大橋では、架設予定日を目前に台風20号が接近。天候を見ながら、架設日は変えず、輸送日程を前倒しして対応したという。
また、有江課長が「この人たちでなければできないというプロの仕事」と称するオペレーターの技術力も、建設産業の“宝"の1つ。来春に予定されている隅田川橋りょうの桁架設も、3000t級の起重機船を導入。ミリ単位で正確に架設するオペレーターの「すご技」が見られるに違いない。
現場を預かる人の技術力こそ、建設産業としてしっかり守っていかなくてはならない。これをどう継承していくのか、これからの建設産業にとって本当の課題と言える。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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