2016/01/05

【インタビュー】少子高齢化社会に都市のあるべき姿とは 日本総合研究所・翁百合副理事長に聞く


 人口減少と少子高齢化が進む日本では、国民の生活を支えるインフラへの投資のあり方が転換してきている。新規への投資は抑制傾向にあり、既存インフラの老朽化・長寿命化対策に重点が置かれつつある。こうした中で将来の都市づくりの方向はどうあるべきか。その中で建設業の企業が取り組むべきことは何か。日本総合研究所の翁百合副理事長に聞いた。

■高齢者目線と子育てしやすい社会

--政府が地方創生や一億総活躍社会を掲げているものの、少子高齢化は避けられない。これからの都市のあり方は

 健康な高齢者だけでなく、歩くことが不自由な高齢者も増えることから、バリアフリー化が非常に重要になる。『買い物難民』というが、地方のことだけではなく、都市部でも移動や歩くこと自体が難しいと感じる高齢者が増える。高齢者目線で都市計画を考えていくことが求められる。同時に、少子化を克服していくために、高齢者に配慮するとともに、より住みやすく、若い人たちができるだけ子どもを産み、育てやすい社会にすることが重要になる。その意味では、保育施設の充実が引き続き課題になる。
 働きやすい社会という観点では、都市部の近くに住居があり、ワーク・ライフ・バランス(WLB)を実現しやすいことも、都市計画の概念の中で、とても重要な要素になると感じている。子育てだけでなく、介護をしながら働く人も増える。介護施設の配置にも配慮することがとても大事なことになる。施設の設置場所は常に制約要因の1つになることから、ワーク・ライフ・バランスを念頭に置いた都市計画が政府や自治体だけでなく、企業にも求められるようになっている。

■インフラ老朽化対策 財源確保は必須
--成熟社会であるとともに、都市そのものも成熟・老朽化している。今後の都市づくりは

 老朽化への対応が最大の課題になる。高度成長期に整備したさまざまなインフラの老朽化が進行し、事故の報道を聞くたび、国民は『不安だな』と思っている。インフラの老朽化対応は、国民の安全・安心にかかわることから財源が足りない状況ではあるが、財源を確保して対応する必要がある。国や自治体には施設を整備した責任がある。民間資金の活用という面では、老朽化対応だけではプロフィタブル(収益が得られる)なものは少ないだろう。しかし、民間のノウハウ、資金を活用して効率的にやるべき公共施設の整備、運営もある。PFI、官民ファンドなどの仕組みがあるが、さまざまな工夫をして、民間資金や提案を入れて、公共施設の維持管理・更新に取り組むべきだと思う。

--限られた財源の中では、いまある公共施設のすべてを維持することは難しく、統廃合も避けられない

 説明責任を果たすことだ。無理に維持しようとすれば負担が大きくなる。自治体は住民税を上げないと施設の維持ができなくなる。トレードオフだということをきちんと説明するしかない。ただ、病院など生活に密着している施設は、住民に不便がないよう、工夫しながら統廃合を進めることが必要になる。


■地方はインフラを維持しサービス提供 
--2020年東京五輪・パラリンピックまでは東京を中心にプロジェクトがおう盛だが、その後もリニア中央新幹線などのプロジェクトは進行する

 コストがかかることから、当然、費用対効果を分析して検討する必要がある。整備新幹線の開通で金沢や鹿児島などは活性化した代表例で、地方創生に結び付く側面もあると思う。リニアについては、東海道新幹線があるが、東京と名古屋との移動時間が非常に短くなるので、名古屋圏などは、さらなる産業の活性化につながる可能性もあるだろう。

--20年以降の市場動向は

 五輪・パラリンピックの反動はあると考える。いま都市部でバブル的な動きが出てきている。大きなバブルになると、その後が怖いと思う。このため、本当に必要で長く使えるインフラをつくることに尽きる。東京圏は五輪だけを目指すのではなく、五輪後を考えて、長期にわたって国民が使えるインフラをつくり、よいレガシーとして残せるようにすることが重要になる。五輪後、上手に活用していくことを考えたインフラが求められている。

--地方については

 地方部は、人口が減少する中でも、生活に必要なインフラを維持しながら、サービスを提供し続けていくことが、自治体、地域経済を支える銀行、企業にとってもとても大事な役割になっていく。また、地域の企業であっても、IT時代の中でグローバルな企業経営ができる。建設業などの企業は、インバウンドも含め視野を外に向けることが重要になる。農業ですら現在は輸出で稼ぐ時代になってきている。発想の転換が必要だ。地域の建設業の企業もノウハウをたくさん持っているはずだ。環境共生都市(エコシティ)づくりなど、ノウハウを提供する余地はアジアにたくさんある。

--今後の建設企業に求められることは

 企業にとって、企業価値の長期的向上が非常に重要視されている。ガバナンスを効かせていくために、サステナビリティーが大事だ。建設業などあらゆる企業は、環境面はもちろん、本業を通じてどう社会に貢献するのかを考えることが重要である。ワーク・ライフ・バランスを始めとした生活提案に力を入れるなど、社会のニーズや動きを見て、より提案型の企業になってほしい。
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